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ガストロノミーク 17

 

■『菊乃井』の村田吉弘料理長と『ミクニ・マルノウチ』村井千春シェフのコラボレーション

世界を駆け巡るロブションやデュカスなどのフランス料理の偉大なシェフたちは日本料理の魅力に惹かれ、また日本を代表する和食の料理人たちは、フランス料理の技法を取り入れる。

そういうことが当たり前になりつつある料理の世界。今回は、この夢のような2人の料理人の競演を当日の風景を織り交ぜながらお送り致します。

『菊乃井』の村田料理長といえば、日本料理界のトップ中のトップ。我々の業界の中ではまさに憧れの存在のひとりなのです。もちろん我らが武井シェフも、このイーエックスのコラムにも何度も登場していただいていますが、その実力はすでに周知のとおりで、30歳代前半の若きフランス料理人としては、その名を知らぬ人はいないほどです(少し誉めすぎかも)。

そんな二人が繰り広げた料理の数々を再現しながら、ワインとのマリアージュも楽しんでいただけたらと思います。

今回このニ人によって考えられた料理は、それぞれの料理長がそれぞれの調理場で(京都東山と東京丸の内とで)素材を仕込み、当日持ち寄って1品に仕上げる方法をとりました。つまり、1つの料理の中にそれぞれ和食のエッセンス・フランス料理のエッセンスが凝縮されているわけです。

ではまず1品目、

『焼き鳥。ごぼう添え Sauce Vin Rouge(ソース・ヴァン・ルージュ)』

鶏肉には薩摩軍鶏(さつましゃも)を使い、甘みのある肉質に山椒風味の赤ワインソース(Sauce Vin Rouge)をからめます。この料理に想造するワインは、木の芽や山椒の香りや程よいタンニン分を持つ、カベルネ・フラン種から造られた、Domaine Bernard Baudry Chinon les Grange2000をお勧めします。

2品目は、『京野菜のBagana Cauda(バーニャ・カウダ)』。

村田料理長が選んだ京野菜(今回は海老芋、正護院蕉、伏見唐辛子)を、ミクニ・マルノウチ風バーニャ・カウダに仕上げました。実はこのミクニ・マルノウチ風というのが特別でして……。

バーニャ・カウダそのものは特にこれといって特別では無いのですが、皆さんもご存知のとおり、ミクニ・マルノウチは1Fがイタリア料理のレストランになっていて、そこのシェフは10年以上ホテル西洋銀座の『Attore(アトーレ)』の室井シェフのもとで働き、昨年の夏よりこのミクニ・マルノウチで腕をふるっている鈴木規之シェフなのです。

今回のバーニャ・カウダは、実は鈴木シェフのエッセンスが入っていたわけなのです。アトーレの室井シェフはイタリア料理界の第一人者で、またピエモンテを中心とする北イタリア料理のスペシャリストとして有名ですが、その室井シェフの下でも長い間働いていた、鈴木シェフも当然北イタリア料理のスペシャリストです。

バーニャ・カウダはピエモンテ地方で「熱いお風呂」という意味を持つ郷土料理です。オリーヴ・オイル、アンチョビ、ニンニクで作ったその名のとおり、温かいお風呂のようなソースの中で野菜を温めた料理で、単純にいうとオイル・フォンデュです。

野菜のシャキシャキ感と素材の持つ甘みにアンチョビの旨味がプラスされた料理です。ある意味特別なのは、フレンチの武井シェフとイタリアンの鈴木シェフの2人の30代の若きコラボレーションが隠れた部分で行われていたわけです。

この素材の美味しさを表現できた料理には、土やミネラル感が豊かで、旨味の凝縮した赤ワイン、やはり料理と同じ故郷のイタリア・ピエモンテ州のAntoniolo Gattinara1996を合わせましょう。

3品目は『Agneau(アニョー)田楽』。

仔羊は乳飲み仔羊(今回はオーストラリア産/オーストラリアは今が春先です)、田楽味噌は菊乃井特製の白味噌と赤味噌の2種類を用意。白味噌のほうは柚子味噌仕立てで、ソースベアルネーズのような仕上がりです。赤味噌のほうは八丁味噌にお砂糖、お酒を加え、白ごまで香り付けをしてあります。

濃厚な旨味に富み、心地良い渋味も合わせ持っています。合わせるワインは、本来Agneau de lait(乳飲み仔羊)に合わせてポイヤック地区のボルドーの赤ワインといきたいところですが、今回の仔羊はオーストラリア産なので、同じオーストラリアのマーガレット・ソヴァー、Leeuwin Estate Art Series Cabernet Sauvignon1996をお勧めします。

4品目は、『揚げお牡蠣 アメリケーヌ&マヨネーズ』

牡蠣は三陸もの、牡蠣にお欠き(掻き)を作るときに出る細かなあられ状のものを衣代わりにまとわせ、油で揚げ、ソース・アメリケーヌとマヨネーズを合わせたものを添えます。

ネーミングは村田料理長と武井シェフとで、「おかき」と「お牡蠣」をシャレてみたそうです……。隠し味に七味唐辛子を少々。

素材の持つヨード香とおかきの粉の香ばしさ、それにアメリケーヌの甲殻類からくる香りに合わせて、ボルドー地方グラーヴの、Clos Floridene1998の白ワインを。全体に落ち着きのある味わいで、香りの点でもすばらしく同調します。おかきの粉の香ばしさが牡蠣の香り・味わいを引き立てます。

5品目は、『松風 Meat lorf(ミート・ローフ)』

松風というのは和食の技法のひとつで、もともとは焼き菓子の名前からきたのだそうです。浜辺の松の木が潮風に揺れているようすを松風と表現します。浜辺のことを浦(うら)といい、この松風を浦で聴くとなんとも寂しいということから松風=浦寂という隠語が生まれたそうです。

松風という焼き菓子は、小麦粉に砂糖、水あめを加え、水で溶いて平らに焼き、表面を芥子の実の粉を散らして焼色を付けた庶民的なお菓子で、裏面は白いままの何の飾り気もなく『裏寂し』というわけです。これを料理法に引用して、同じように芥子の実をお魚やお肉に散らして焼いた焼き物のことを『松風焼き』といいます。

裏と浦の言葉の綾にひっかけたなんとも信じがたい話ですが、表には細工をして浦には何も手を加えないという料理に、日本の風土の中で独自に発達した四季や気候風土の変化を楽しむ日本料理らしいネーミングといえます。

今回のミートローフには、フランスのシャラン産の鴨肉を使いました。酒煎りのぎんなんを添えています。味わい深い鴨肉に芥子の実の香りが口の中いっぱいに広がるこの料理には、繊細でエレガントなフランス、ブルゴーニュ地方のDomaine Simon Bize Savigny-Les-Beaune Premier Cru Fournaux1998を合わせます。

6品目は『アワビ&松茸』

アワビは水とお酒、大根、醤油とで4時間かけて柔らか煮にしてあります。松茸はサッとバターソテーにして、香りや味を閉じ込めてます。単純ですが、旨味や香りが十分に凝縮した料理です。この単純な美味しさを一番に引き立てるのは、やはりシャンパーニュの他には思い当たりません。今回は、Henriot Brut de Souverain NVを合わせます。長い時間をかけて澱と接触させ、アミノ酸による旨味が充分に溶け込んだシャンパーニュならではの楽しみ方です。

最後にもう1品。この料理はコースの流れの中ではなく、村田料理長自身がお客様の目の前で焼いてらした『フォア・グラとそば粉のタコ焼き風 Sauce Perigueux(ソース・ペリグー)』。

これはほんとに楽しそうに焼いていた村田料理長の写真を添えます。お楽しみください。最後のワインは、メルロー種とフォア・グラ&トリュフのマリアージュを味わっていただきたく、アメリカ、カリフォルニアのソノマ・カウンティMatannzas Creek Wihery Merlot1996をお勧めします。

さて今回のコラボレーションはいかがでしたでしょうか? 美味しいものには国境がないということを改めて感じた私自身ですが、どの料理も少し手を加えれば、家庭でも楽しめそうな物ばかりです。素材やワインを変えても良いと思います。ぜひお楽しみください 。

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