■私自身の職業意識とスタイルと
今回のテーマの「私が注ぐとワインはおいしい?」は、最初に断っておきたいのは、これは決して自慢ではなく、自己満足でもなく、あくまでも自分自身に課している職業意識の持続についてのことなので、そこのところを少し強調しておきたいという序文から始めてみます。
毎日の仕事の中で、実際に飲食店でお客様からの注文を受けてワインをサービスする場合、店のワインが1種類か2種類というという場合は別にして、50〜60種類あった場合に、そのワインを実際に飲んだことがあるのか、実は飲んでなかったのかと言うのが最初の大きな分かれ道になるわけです。
「本で見て評判良かったから買ってみたものの、一度も飲んでないや、でもこの客はやさしそうだから売ってもいいだろう」という場合と、「これはおいしいですよ!」と飲んだ経験から勧めることができるというスタイルの違い(職業倫理観の違いと言うべきかも)がここですでに生れます。
その後抜栓してグラスに注いで、飲んで、食べて、支払って帰ってね、となるわけですが、今回のテーマである「私が注ぐと」の部分はどこに介在するのかと言う点がここで浮上してくるのです。
ワインをおいしく飲んでもらいたいという気持ちはある意味、まああたりまえのことで、「このワインのこの部分を全体の中でうまく表現させたい」と言う明確な主旨(コンセプト)がいるのではないかなと、私自身は思っているのです。それはメルロー100%のワインをカベルネっぽくサービスするとか、あけてから4日目のシャンパーニュを微発泡のシャルドネでございますと言って出すことではなく、今日、この店に来ていただいた以上は、他の場所で飲むよりはおいしく感じさせたいと言う気持ちなのです。
■漠然としたリクエスト、どう応えるか
さて、そのためには何から始めるべきなのでしょうか。ソムリエ教本に書いてある通り、「来店目的と予算を見抜くこと」が必要なのでしょうか。「今日は彼女の〇回目のバースデー、トータル2人で3万円、3時間で帰りますよ」と言ってくれた場合は別として、「どんな味の(料理と)ワインを今日は楽しみに来ているのか」という客側の希望、何をしてもらいたいのか、またしてほしくないのか、と言う部分を私は重要視しています。
インテリアやサービスのスタイルはある程度、リピーターである場合は分かっているでしょうし、来店動機的な部分、例えば一緒に来た相手を口説きたいのでおいしくても酔いにくいものか、また逆に力強く酔わせたいのか、最近忙しいので仕事を忘れさせてくれるよう胃にしみるタイプが良いのかなどなどを、ゲストとの会話の中で色々と推測しつつ、ワインを選び、さらにはどのように飲んでもらうかの方向性を考えるのです。
「ピノ・ノワールでおいしくてしっかりしているタイプ」とか、「南半球で熟成しているもの」など多くは漠然としていてとめどのないように感じるお客様からのリクエストに対して、何とかその好みに合ったワインを限られた在庫の中で提供すると言うことは、品種や造り手の個性、土壌を含む環境についてはもちろん、以前にサービスした際のワインの特徴などのデータをもとに(ここで以前飲んだことがあるという経験が必要となります)サービスの段取りや料理なども詰めていくのです。
注文いただいたワインが例えば95年のシャトー・ドーザック(Dauzac)であった場合は、そのワインのもつ特徴的な、落ち着いた黒っぽい果実のニュアンスや溶け込んだ渋味を徐々に出していきたいとか、97のコルナス(クラープ)であれば、抜栓後20分くらいはわりと地味なままなので、デカンタージュを2回繰り返してからグラスに注ぐとか、67のシャトー・ラトゥールはまさに飲みごろなので、逆にそのワインの持つしなやかさをいかに邪魔せずにサービスするにはどうすれば良いかなど、これがワインを選んだ後の方向性の(サービスと言う仕事ならではの)部分です。
異常なほどのヴァンダンジュヴェール(早期摘房)をした生産者の熱い思いを届ける! とか、ワインと言う素材の持つ味わいを100%伝える! ということは最近ではとてもあたり前のことで、逆にちょっとくさく感じてしまうのです。
■ワインとサービスの関係
抜栓して注ぐ以上は、味(もちろん香りも)をいかに伝えるか、ということで、それ以外は聞かれたら答える程度でよいのではと。それよりも一本ずつ味の異なる、しかも日によってでも開いていたり閉じていたりするワインをサービスすることは、いわば楽器と演奏者の関係により近いものであり、絵の具と画家の関係と言っても良いのではないかと感じます。
同じ楽器や絵の具を与えられたのなら他の人よりは多少はうまく、少しは個性的に、できれば即興の部分も付け加えて演奏したり描いたりしたいと言う発想が、「私か注ぐとおいしくなればよいのですが」の本当の意味なのです(そのためには少しは個性のあるワインを最初から選んでおくことが必要でしょう)。
この楽器(バイオリン)の材質はどこそこの森の200年のクヌギでニスは5回塗ってますとか、楽器店は別として、演奏中はあまり関係ないですよね。肝心なのは、どんな音が出ているかなので、そんなことよりも、食事中であるならば、グラスに注いだあと刻々と変化するワインにもっと集中したいと言う気持ちが私自身強いように思うのです。
その結果として「あなたに注いでもらうとなぜかおいしく感じる」「ここで飲むと家での時とは違って旨い」と思ってもらえるのが、私たちサービスのスタッフの可能性ではないでしょうか。
■これからのワインサービス
一昔前までは、ソムリエサービスは抜栓して注ぐだけだから楽だとか、料理人と違って誰がサービスしても味は同じとか言われたりもしましたが、この先、客席数の多い大きなレストランや飲食店では、もっとサービスの人に対する指名制があると面白いかもしれません。
お気に入りの担当者のいるテーブルを予約するとか、現に美容室などではあたりまえのことですし、後はサービスの人によってワインの値段が変わるとかですね、シェフソムリエに頼むとワインの値段が1000円UPするとか(まあチップでもよいのですが)それでもあの人のサービスを受けたいと言われるようなシチュエーションを目標にしていくことが、これからのワインサービスの方向なのではと思うのですが。
おいしくなるようにとワインをサービスしても、よいワインだったか、希望にあっていたか、おいしく楽しく過ごせたかはお客様自身が帰られてから感じるもので、主導権は基本的にはお客様の側にあるのです。私が注ぐことによりおいしく感じて欲しいという気持ちを保ちつつ、そのことを忘れないということが控えめなサービスであり、謙虚であると言う本当の意味であり、へりくだったり、お客様に話し掛けないとかいうのは、階級制度の残るヨーロッパのグランメゾンは別として、本末転倒でしょう。
■eX-Offline Meeting Vol.1 / Vol.2開催日決定のお知らせ
―佐藤ソムリエの注いだワインは何が違うんだろう?
―味がどう変わるんだろう?
―なぜ変わるのだろう? その秘密は?
その疑問に答えるべく、記念すべきイーエックス・ワインの第1回オフライン・ミーティングが7月28日(土)に、佐藤陽一氏が代表ソムリエを務める「MAXIVIN マクシヴァン」で開催されます!
佐藤ソムリエのサービスは何が違うのか、こっそりとそのヒントを見つけに行きませんか? 普段何気なく受けているサービスのひとつひとつに、実は理由があったんです。もちろん当日はイーエックス・ワインの貸切ですので、多忙な佐藤ソムリエも独り占めですよ!
佐藤ソムリエの注いだワインは、本当に美味しいんです!
※ご好評につきVol.1は定員に達しましたので締め切らせていただきました。 Vol.02のお申し込みは今しばらくお待ちください。