


【目次】 1. ハーヴェストレポート 2. ダンディ 3. ガメイという品種 4. さよならBATF
1. ハーヴェストレポート年によっては11月のサンクスギヴィング(感謝祭)前後までも収穫が遅れるヴィンテージもありますが、今年は早めに終了。ワイナリーの皆さん、ゆっくりとターキー(七面鳥)を食べることができたようです。 カリフォルニアでは収穫のあの活気が懐かしいほど静かな秋、そして暖炉の灯がうれしい冬を迎えました。まだまだ、セラーでは2002年の新酒が熟成中ですが、一年をしめくくる意味でも、今年のハーヴェストレポートといきましょう。 カリフォルニアといっても南はロサンゼルスの南から北はメンドシーノまで、日本でいえば北海道から九州に及ぶほどの距離がありますから、ヴィンテージをひと言でまとめるわけにはいきません。ましてや、ワシントンやオレゴンなんて外国のようなもの(ちょっと大げさ?)。 各地のワインメーカー諸氏にいろんなコメントをいただいてみました。
■ナパ・ヴァレー「ここ数年続いて起こっていることだが、春の気温が低く、霜の害が多少見られた。雨期に降った雨の量は平年並みかちょっと少なめ。しかし5月の末にまとまった雨が降ったので、大きく伸びようとするぶどうの樹にはいい活力剤となった。 7月と8月は例年より涼しい気候で、このままだと収穫は遅くなるかなとおもいきや、9月1日のレイバーデー(アメリカ版勤労感謝の日で祝日)前後にやってきた猛暑は、ようやく活気のでてきたソーヴィニヨン・ブランの収穫を一気にピークへと持ち込んだ。 カーネロスを中心とするスパークリングワイン用のぶどうは平年なみに収穫がスタート。
9月の3週目ぐらいからはピノ・ノワールが入ってきた。その後しばらくまた気候が涼しくなり、セラーにはゆとりが出てきたが、9月末から10月にかけてのインディアンサマー*は、その他の黒いぶどうがどんどん収穫されて、ワイナリーでは空いたタンクの奪い合いだったよ。 *インディアンサマー: 暦の上では秋なのに、夏のような暑さが訪れる日 5月の結実期の雨や畑での積極的な収量制限もあり、収量は多少すくなめ。でも、凝縮した風味と熟したタンニンが得られてクオリティは最高! ナパ・ヴァレーのグレートヴィンテージといわれる94年、97年、99年を思わせるようなヴィンテージだね」
■ドライクリーク・ヴァレー (ソノマ・カウンティ)「ドライクリーク・ヴァレーでは8月末に今年は収穫が始まった。9月にはいると急ピッチで収穫は進み、10月第1週目の時点でほとんど終了。8月が涼しかったのに対して、9月は何度か猛暑がやってきた。
収穫量は昨年よりやや少なめ。今年の特徴は、酸がしっかりついていること。ドライクリーク・ヴァレーの代名詞的な品種、ジンファンデルは、糖度が結構上がってるよ。 でも2002年成育期は一滴の雨も降らなかったので、とっても綺麗な状態でぶどうが入ってきた。いい年だったね」
■サンタバーバラ「すばらしい収穫期だった。この前の冬は寒く、雨も少なかったせいもあって、今年のぶどうは粒が小さく風味が充分についた。 生育期は、8月の終わりと9月の初めに2回の猛暑がやってきたぐらいで、全般にわたって比較的安定していた。
びっくりするかもしれないけど、ぶどうの出来は最高。むしろ、生産過剰気味のカリフォルニアだからちょうど良かったと思っている。 ピノ・ノワールの出来はすばらしいよ。シラーも順調に収穫が終わり、収量は1エーカーあたり3トンってとこかな」
■ヤムヒル (オレゴン)「オレゴンワイン産業始まって以来の快挙。なんと5年連続のグッドヴィンテージとなった。 ぶどうの成育期は比較的乾燥していて、収穫期の途中で軽く雨が降った。今年の特徴は、まるで2つのヴィンテージが一度にやってきたようなパターンが見られること。 まず、若い樹のぶどうは成熟が早く、収穫も早くに始まった。ぶどうはジューシーでソフト、糖も高い。一方、古い樹は根が深く張っているため、バランスがよい。成熟がゆっくりと進み、2〜4週間ほど若い樹よりも収穫が遅くなったが、糖はそれより低い。 まだまだ、これから熟成そしてブレンドすることによってもっとはっきりとした特徴がでてくるだろうが、98のヴィンテージに似ていて、香りや味わいが前向きに表に出るタイプになるだろうね」 猛烈な植付けブームによってぶどうの生産過剰も多少噂されていますが、高級なバラエタルワイン向けに栽培されるぶどうはまだまだ、契約競争は活発な動きをみせているようです。
2. ダンディ
両方向一車線が交差するだけの州道99号線。 街の中心地といってもレストランが数軒とワインショップ、それにむかし胡桃の加工場だったアーガイル・ワイナリー。なーんだ、ただの田舎町? なんて思ったら大間違い。ここが近代オレゴンワイン産業の発祥の地なんですから。 オレゴンワインの近年の人気の高まりには、いろんな要因が考えれます。
【1】 栽培と醸造の技術を身に付けた生産者が増えたこと。 【2】 土地の特色がわかってきたこと。 【3】 苗木の入手が容易になったこと。 【4】 4年続きのグッドヴィンテージに恵まれたこと。 【5】 「オレゴンでワイン(ずばり、ピノ・ノワール)造りたい!」というワインメーカーが増えたこと。 【6】 以上の要素が相乗効果を生み、素晴らしいクオリティのワインができていること。 【7】 そしてオレゴン産ワインの個性がはっきりと市場で認められてきたこと。 列記するともっともっと挙げられそうですが、オレゴン=ピノ・ノワールというイメージはすっかりワイン業界に定着し、ピノ・ノワールの銘産地はブルゴーニュ、オレゴン、ニュージーランドだという醸造家さえいます。 カリフォルニアやニューヨークのトップレストランでも、ワインリストを広げると、ピノ・ノワールのセクションには必ずオレゴンのトップ生産者がずらりと名を連ねる時代です。
■レッドヒルの赤い土が
ダンディの丘からはオレゴンの象徴、マウント・フッドが富士山のように見えるんです。 畑好きの私ですから、もちろん土壌のお話もちょっぴり。 レッドヒル一帯はヤムヒル・カウンティの中心都市、マクミンヴィルのちょうど北東に位置し、オレゴンの大河、ウィラメット・リヴァーが最も接近しています。南北に走るレッドヒルはそのほとんどがジョーリーと呼ばれる土壌系に属する火山性土壌です。
■パパ・ピノ=オレゴン・ピノ・ノワールの父=デヴィッド・レットさんオレゴンの近代ワイン産業は、1966年、「パパ・ピノ」(オレゴン・ピノ・ノワールの父)と皆に呼ばれるデヴィッド・レットさんがこのダンディの赤い土にピノ・ノワールを栽培したことに始まるといわれています。 デヴィッドさんは、カリフォルニア大学ディヴィス校を卒業後、カリフォルニアの気候は暖かすぎてピノ・ノワールは合っていないと疑問を抱き、涼しい場所を求めて、ニューワールドのニュージーランド、オレゴン、南アフリカをピノ造りの候補地に考えたそうです。 もちろん、当時のディヴィス校では誰もオレゴンでピノ・ノワールが成功するなんて思ってもいませんでした。 1960年代といえばカリフォルニアではモンダヴィさんがロバートモンダヴィ・ワイナリーを創立した時代です。オレゴンにやってきたデヴィッドさんは、学校教材用の教科書のセールスマンとしてまず家計を支えながら、面白い土壌が目に付くと車を停めてはスコップで土を掘りかえし、ピノ・ノワールに合った土壌を捜し求めたと語ってくれたことがあります。 とても恥ずかしがりやで一見、怖いおじさん(今はすっかりおじいさんになられましたけど)ですが、オレゴンのワイン産業で次々と誕生する若い醸造家やワイナリーのことをまるで見守るように広い心で支援する、ほんとうに「パパ・ピノ」というニックネームがぴったりの方なんです。 無名の地、ダンディから生まれたピノ・ノワールをアイリー・ヴィンヤードというワイナリー名で初リリースしたデヴィッド・レットさん。 彼の功績がはじめて世界に認められたのは、1979年のパリの試飲会でした。ブルゴーニュの大物と一緒に肩を並べ3位に入賞。今まで聴いたこともなかった産地、オレゴンという土地に深く興味をもったのは、メゾン・ジョゼフ・ドルーアンのロベール・ドルーアンさん。
1987年にはダンディの丘の頂上に100ヘクタールの土地を購入し、ドメーヌ・ドルーアン・オレゴンというワイナリーを創立しました。 オレゴンのワイン産業の成長を見てきた人たちにいわせると、当然開拓されるべく生産地であることは間違いないが、ドルーアンの進出で一気に成長が早まったと、ドルーアンの存在を歓迎しています。 ダンディのレッドヒルには、ドルーアン、アーチェリー・サミット(こちらはナパ・ヴァレーの生産者ですよね)、ソッコルブロッサー、近年はドメーヌ・セリーンが立派なワイナリーを建てるなど、今ではすっかりワインカントリー。デヴィッドさんも30年前は予想もしなかった風景でしょうね。
3. ガメイという品種■オレゴンからの土産話をもう一つちょうどボジョレー・ヌーボーの時期ですから、「おいしいガメイはないものか」と考えていたところ、オレゴンでおいしいガメイに出会いました。その前にまず、アメリカ市場でのボジョレー・ヌーボーの話から。 日本ほどのフィーバーぶりは感じませんが、気の利いたワインショップへ行くと、こちらでも 「Arrived!」 と大きな垂れ幕を下げてその到着を知らせます。
私の行きつけのワインショップでは今年は8ブランドを出してました。そこのオーナーに「どれをお薦め?」って何種類も揃ったブランドの中から選ぶのに迷っちゃいました。
■さて、ではアメリカバージョンのヌーヴォーは……国産(もちろんアメリカ産)のワインとなると、フランス産のヌーヴォーワインがほどんど10ドル以下と安い価格で売られているということもあって、一昔前はセバスチャーニやベリンジャーなど大手ワイナリーが大々的にヌーヴォーワインを造り、勢いを見せた時代もありましたが、最近はすっかり店頭からは姿を消してしまいました。 しかも、カリフォルニア産のヌーボーワインは通称ナパ・ガメイという品種が多く、ルーツを辿るとこれはヴァルディギエ種と同じとか。ほかにピノ・ノワールの劣性クローンでガメイ・ボジョレーという品種もよく見かけたものです。 本題のガメイ種ですが、カリフォルニアでいうナパ・ガメイやガメイ・ボジョレーとは全く別物。本家フランスでは10世紀から植えられているそうですね。正式な品種名はこちら。 Gamay Noir a Jus Blanc ガメイ・ノワール・ア・ジュ・ブラン (白いジュースの黒いガメイという意味)
■「感動するオレゴンのガメイ」?実はこのガメイ・ノワール、オレゴンでは一握りのワイナリーですが密かな支持を得ています。苗木はカリフォルニアからではなく、1970年代にオレゴンのデヴィッド・アーデルスハイム(アーデルスハイム・ワイナリーの当主)さんがフランスから持ち帰ったものがオレゴンでのルーツの源となっています。 たわわに実をつけるガメイ・ノワールはそのまま栽培すると大味で色の薄い平凡なワインとなることから、オレゴンでも長い間なおざりにされてきました。 しかし、熱心なピノ・ノワールの生産者が増え、注意深く剪定や摘房を行う作業が極一般的になってきた今日、ガメイ・ノワールのよさが再発見され、明るい果実がいっぱいのチャーミングなスタイルでプレミアムクラスのワインに負けないガメイ・ノワールを生産しています。 私が気に入ったのはブリックハウスとラ・ベート。両方とも日本未輸入ですが、こういった生産者がガメイ・ノワールをオレゴンで大切に広めてくれることでしょう。 ボジョレー・ヌーヴォーはクリスマスにかけての1ヶ月ちょっとですっかり熱は冷めてしまいますが、ガメイ・ノワールは長熟型でないにしても食事のパートナーとして気楽に飲める品種としてもっと普及して欲しいものですね。ピノ・ノワール尽くめのオレゴンで息を吹き返したガメイ・ノワールに感動した一日でした。
4. さよならBATF■BATFとはきっと初めて耳にされるかたも多いことでしょう。 BATFとは【 B ureau of A lcohol, T obacco and F irearms】の略名で、日本語では「アルコール・タバコおよび火気(銃砲)取締局」と、なんとも勇ましい名称のアメリカ政府のお役所なんです。 単刀直入に説明すると、アルコール飲料の税金徴収に目を光らせるのが主な仕事ですが、ワイン取扱者のリカーライセンスの管理はもちろん、ワイナリーでは、ぶどうの搬入からワインのリリースに至るまで、すべてをこのお役所に報告するのが義務付けられています。 なぜかこの国ではタバコや銃砲の取り扱いと同じ役所が統括していたのですが、このたび、アルコール飲料の部分がBATFから離れ、財務省の管轄となりました。ワインが銃砲と一緒に取り扱われちゃ、ちょっとムードこわれますよね。 日本にいらっしゃる皆さんにとってはどうだっていいことでしょうが、アルコール飲料、ことにワインの悪いイメージが一掃されたわけです。実際に稼動するのはまだずっと先の話だそうですが、とりあえず、おめでとうございます。 【あとがき】 今回は雰囲気的に「サテライト・オレゴン」になっちゃいました。カリフォルニアよりずっと冬を感じるシーンと冷え切った雰囲気のオレゴン。この時期になるとあたりに靄が立ち込め、深みのある緑色を背景に、まるで水彩画のようにそのピュアな美しさにはいつも感動します。 そうそう、先月お話したお化けのでるワイナリー、すっかりクリスマス気分でした。 Happy Holidays!よい年末年始をお迎えください。 (Yasko Cadby) |

