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ビブリオテーク 16
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■ニコラ・アレクサンドル・ド・セギュール侯爵

皆さん! ソムリエ・ビブリオテークにようこそ! 今回のゲストは、ニコラ・アレクサンドル・ド・セギュール侯爵(1697-1755)でございます。

では、まいりましょー! 

 

ケンジ2号:
「どうも、皆さんこんにちは。今回は18世紀、ボルドーにおいて非常に名声を博したと言われるこの方をご紹介いたしましょう。ニコラ・アレクサンドル・ド・セギュール侯爵。どうぞっ!」

ケンジ1号:
「2号! なんか、毎回ほとんど同じ登場のさせかたじゃない?」

ケンジ2号:
「何で1号がいきなり登場してるの? それと侯爵はどこなの?」

セギュール:
「私ならここだよ」

ケンジ2号:
「いきなり退場口から登場してるじゃん! 侯爵、どうしたんですか?」

セギュール:
「実は普通の登場口から会場に入っても面白くないんでね。逆から登場してみた」

ケンジ1号:
「だから僕が登場口から登場したのっ。僕も考えてみたら逆から出るのも悪くはないかと思ったからね。ということで、今回は僕が司会と進行をやっちゃおう」

ケンジ2号:
「え、じゃー俺はどうすんの?」

ケンジ1号:
「つっこみ役?」

ケンジ2号:
「そんなー」

ケンジ1号:
「じゃ、侯爵、早速はじめましょうか!」

セギュール:
「いいよ。では私から君たちに質問なんだが、私はなぜ「ぶどう王」と呼ばれていたかご存知かね?」

ケンジ1号:
「うーん、侯爵の生きていた時代のフランス王はルイ15世でしたよね」

セギュール:
「その通り。それで?」

ケンジ1号:
「で、侯爵がボルドー地方の有名なシャトーの所有者だったからかな」

セギュール:
「当たりは当たりなんだけどいまいち説得力に欠けているので言わしてもらおう。私は当時、ボルドーの高等法院の院長で、いわゆるボルドーの名士として通っていた。君たちが言ったように沢山の畑を所有していたわけだ。でもそれだけじゃ《ぶどう王》の称号をルイ15世から言われない。『非常に素晴らしい』といわれている畑を沢山持っていたのだ。わっかるかるかなー、わっかんねーだろうなー」

ケンジ2号:
「そのギャグってめちゃくちゃ古いスよねー。あーもー古ぅ」

ケンジ1号:
「確かに古いけど、そんなことはどうでもいいの! で、セギュール侯爵の所有していた畑といえば、このシャトーが一番有名なんだよね」

ケンジ2号:
「そうだよ、そうだよ。早く言っちゃえよ1号。ねっ、あれでしょ? ちゃんとわかってるんだから」

セギュール:
「それは、私の名前がシャトーに付いているからね? ケンジ2号! じゃあその畑の名前を言ってごらん」

ケンジ2号:
「そ、それは、その。あれじゃないですか。ね、1号」

ケンジ1号:
「お前、あれだけ強気に出といて、何にもわかってないじゃん! カロン・セギュールでしょ」

セギュール:
「お、1つ当たり」

ケンジ2号:
「いいじゃん、すーごいじゃん、カロンじゃん! ジージャン、皮ジャン、セギュールじゃん!」

ケンジ1号:
「それって、関西の某引越し会社のコマーシャルをパクッてるだけじゃん! もーこいつ放って置いてください! 侯爵。次に行きましょう」

セギュール:
「そうしよう。そのほうが賢明そうだね」

ケンジ1号:
「でも、それだけじゃあの《ぶどう王》の称号はいただけないですよね。ひょっとして、あのルイ15世が飲んであまりの美味しさに度肝を抜き、あなたにあの称号を言わしめたワインといえば……、あ。わかった!」

ケンジ2号:
「本当にわかったの!」

セギュール:
「じゃあ聞かせてもらおうか」

ケンジ1号:
「あのワインしかないですね! 以前にこのビブリオテークにもご登場いただいたルイ15世の寵姫だったポンパドール公爵夫人が王に紹介し、それ以来ヴェルサイユ宮殿の王侯貴族達を虜にしたワイン! その名はシャトー・ラフィット。いあやー侯爵は、ラフィットを所有してたんですね」

セギュール:
「ようやくわかったね。あれはね、リシュリュー枢機卿がポンパドール夫人と喧嘩して、このボルドーの地に左遷させれたのがきっかけなんだよ。あの枢機卿ときたらボルドーに赴任してきたにもかかわらず『私は、ブルゴーニュワインしか飲まぬ』というから、私は頭に来てラフィットをブルゴーニュワインだと偽って彼に飲ませたんだ。そうしたら『こんな美味しいワインは飲んだことがない』と言い出してね。それ以来このラフィットを愛飲するようになったのさ」

ケンジ2号:
「それもすごい話だよね。バレたら大変なんじゃないんですか?」

セギュール:
「いやいや、私はボルドーの高等法院の院長だから関係ないさ。最初はリシュリュー個人で楽しんでいたのだけれど、奴のことだからヴェルサイユに復帰するための材料としてこのワインが使えることを見出したわけだ。それで政敵だったポンパドール夫人と仲直りをして、彼女から王に紹介してもらったわけだな。これが大成功し、彼はヴェルサイユに返り咲いた」

ケンジ2号:
「なんか、妙な話だね」

セギュール:
「現在の人々から見ればそう思えても仕方ないかもしれないな。まあその当時は、当たり前のことだった。それからラフィットの値段はすごい高値で取引されるようになり、私も非常に恩恵を受けた。おまけに私は、ラトゥール、ムートンなども所有していて、ラトゥールはイギリス市場で非常に高く評価されていたし、ラフィットやラトゥールまで、著名ではなかったけれどもそれなりに高く評価されていたんだよ」

ケンジ2号:
「凄いね、侯爵! 大地主だし、しかも持っている畑は超一流! ワインビジネスの真の成功者ってかんじ」

セギュール:
「嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう。当時私がワインビジネスでどれ位利益を出していたかというと、例えば、ラフィットとラトゥールの2ヶ所だけに限っても年に10万リーブルという見積もりで、その内60%が純益だったよ。だけれども毎年良いぶどうが収穫できるというわけではないから1744年なんかは、不作の年だった。仕方ないから、地方総監のトゥールニ侯に税金を安くしてくれと陳情した際、提出した公式の帳簿で、収入は27万2千リーブルに対し、支出は3万4千リーブルだったわけだ。この意味わかるかね?」

ケンジ2号:
「これだけ聞くと侯爵は、桁外れに儲けていたって感じかな。ねぇ、1号」

ケンジ1号:
「すばらしいね! でも、侯爵それだけじゃないでしょ。もっとワインのために貢献されてますよね」

セギュール:
「ハッハッハッハッハ! そうだね。私が所有するムートンとラフィットで出来るワインのキャラクターが明確に違うということがわかったのでお互いの境界線をはっきりと定めたんだ」

ケンジ2号:
「じゃあ、現在のラフィットとムートンとの境界の原型は、侯爵が決めたんだ!」

ケンジ1号:
「侯爵がぶどう園経営に情熱を注いでいたのが理解できますし、こうして築き上げられたワインの名声は現代でもゆるぎないものです。各時代の所有者たちも努力し、品質と名声の向上と維持に努めてきたと思います」

セギュール:
「君たちに面白い話をしてあげよう。王とポンパドール夫人がすっかりラフィットの虜になり、生産者である私に会ってみたいとおっしゃっていただいてヴェルサイユに赴いたときのこと。私は王の間に通された。王は私の着ているジャケットを見て、お顔の表情が驚きに変ったのだよ。そして王は、この私にこう申された。

『侯爵は、ラフィットを所有しているだけあって、身に付けているものも素晴らしい。特にその美しく輝くダイヤモンドのボタンは見事なものだ』。すぐさま私は『これらのものは全て私が所有しておりますぶどう園の石を綺麗にカットし、磨かせたものです』と申し上げたところ、王は、ニヤリとしながら『では、そんな素晴らしいぶどう畑を沢山所有しておるので、侯爵のことをぶどうの王と呼ぼう』と私に申された。それが例のぶどう王の始まりというわけだ」

ケンジ2号:
「それは面白いことを聞いちゃったなー」

セギュール:
「だが私個人としては、ラフィット、ラトゥール、そしてムートンを所有してはいるが、カロンにすごく愛情を注いでおったのだよ」

ケンジ1号:
「それは、なぜですか侯爵?」

セギュール:
「このカロンと呼ばれている辺りはローマ時代すでに存在した村で、カロンとは、ローマ時代の古語で木という意味を持っていた。さらにローマ兵たちが材木を運ぶ小船もキャロンと呼ばれていたんだ。嬉しいことにメドックのぶどう栽培はこの辺りから始まったと言われていたし、だいたい13世紀時代まで遡れる資料も残っている。私の時代はこのサンテステフ村の名前は、カロンを付けて呼ばれていたのだよ」

ケンジ1号:
「カロンは、この村の中心だったのですね。しかも、侯爵の亡くなられたあとはご承知の通り、従弟のアレクサンドル・ド・セギュール・カロンに引き継がれ、現在のシャトーの建物を造ったのですが、その息子であるニコラ・マリー・アレクサンドル資金難に陥り、売却してしまったのだけれども、その一部が今日のシャトー・モンローズになっていて、現在非常に高い評価をカロン・セギュールと共に得ていますね」

セギュール:
「そうか。まあ、歴史の中で色々な出来事が起こるが、私の所有する畑が本当に君達のいる現代でも評価され続けている事に喜ばずにはいられないね。ただ私は、この土地が歴史的に古く、また潜在能力を秘めた土地であるし、このメドック地区のぶどう栽培発祥の地だから、深い愛情と尊敬をこめてこのカロンを愛してやまない……。

『われ、ラフィットとラトゥールをつくりしが、わが心、カロンにあり』

ケンジ2号:
「本当は、このカロンの館に素敵な愛人が住んでいたからという説もあったんですが、違いましたね」

ケンジ1号:
「当たり前だよ! それでは皆さん今回はこの辺で失礼します。また、次回お会いしましょう。さようなら」

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