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ポムロールのエレガンス - ヴュー・シャトー・セルタン テイスティングより -
■激流の中で
この10年、一気のその知名度を上げたAOCといえば、ラングドック−ピック・サン・ルー、モンペイルーなど−、マディラン、コルナス……、ボルドーではコート・ドゥ・カスティヨン、ボルドー・コート・ドゥ・フラン、フロンサック、コート・ドゥ・ブールなどが挙げられる。しかし、ポムロールほどその評価、価格において急激な成長をおさめたAOCはないだろう。
ポムロールといえば、ボルドーでもお手軽で、地味なワインというイメージがあったと思う。しかし、ル・パンをはじめ、レグリス・クリネ、クリネ、ガザン、ラフルール、ラフルール・ドゥ・ゲィ、タイユ・フェール、最近ではオザンナといったユニヴァーサル・ブランドの登場により、ポムロールはまさに台風の目となったのである。
現在、1995、1996といった恵まれたヴィンテージが徐々に開花し始めると、その上昇気流はさらに力を増していった。 もう、ポムロールでお手軽なワインを探すのは不可能な話となった。
長い間、サンテミリオン・ポムロールと付随品のように一くくりにされ、サンテミリオンの恩恵を授かってきたポムロールだが、エリアはより限定され、サンテミリオンほど品質のバラツキは少ない。
土壌は粘土が多く、区画によって小石、石灰などが入り混じる。もっともよい区画、ペトリュスのあるプラトー(台地)には酸化鉄が豊富に含まれており、ぶどうに成熟と凝縮、独自の風味を与える。ボルドーでよくいう"冷たい土壌"の典型がポムロールといえる。
ぶどうはメルローがほとんどのシャトーで使用率90%を超えている。事実上100%メルローのワインということになる。その特別な土壌でカベルネが熟すことはめったにない。ペトリュスでもカベルネ・フランが一区画に植えられているが、ワインの用いられるのは10年に1度だという。ちなみになぜわずか11haしかない畑に使うことのないぶどうを植えているのかと聞くと、"確かにもったいない話かもしれないが、今あるカベルネ・フランは樹齢がとても高く、見事な状態(素晴らしい盆栽のようで)なので、引き抜くのが忍びないから"とオーナーのクリスチャン・ムエックス氏は答えた。品質はどうやら問題ではないらしい。
生産者はサンテミリオンより、さらに小規模なところが多く、各シャトーの畑面積、千三両は極めて限定されている。シャトーというより、クリュと考えたほうが適当だろう。ポムロールだけシャトーの格付けがないのもそんな理由が挙がられる。しかし、大手メーカーも確かにその存在感を誇示している。ペトリュスを率いるジャン・ピエール・ムエックス、ヴィユー・シャトー・セルタン、ル・パンのティエンポンファミリーだ。両者とも歴史があり、移り変わりの激しいポムロールに王者として風格を保ちつづけている。
ポムロールのワインは色が濃く、香りはグンと上がってくるものは少なく、クローズしがちである。土や鉄っぽさが若いうちは強いので、なおさらそう感じられる。果実のトーンはそれほど高くなく、土、動物的ニュアンス、そしてスパイスを中心として、熟成を進めていく。味わいは全体になめらかでツルンとした触感が特徴的。まろやかだが、常に凝縮感があり、引き締まっている。タンニンはスパイシーさを伴っていて、"舌を掴むような"印象を与える。渋みというより、苦味として感じられるタンニンが多くのワインにみられる。
■ヴィユー・シャトー・セルタン Vieux Chateau Certan
ポムロールの中央部、"セルタンの台地"に位置しており、ポムロールでは珍しく砂利質が多くを占めるということもあり、カベルネの比率が高い。1924年より、ティエンポンファミリーの所有となり、現当主のアレクサンドル・ティエンポンで三代目となる。
畑面積は14haで、60%がメルローで30%がカベルネ・フラン、10%がカベルネ・ソーヴィニヨンである。氏はカベルネ・フランをもっとも気にいっているという。"カベルネ・フランはエレガンスと余韻の長さを与える"という。あまり、言われていないことだ。
もっとも古いぶどうは1932年に植えたメルローであるという。"テロワールを反映させるため、我々の仕事の85%がぶどう畑で行われていなければならない"と主張する。
ボルドーの生産者というより、ブルゴーニュなどの造り手といったスタンスが垣間見れる。
■ヴァーティカル・テイスティング 2000-1989
2000 Vieux Chateau Certan
深みのある、明るいチェリーレッド。香りは気品があり、繊細で調和がとれている。樽からくる洗練を与えるスパイスや成熟度の高さからくる濃縮感のある果実に若干のメントール・タッチが加わる。味わいはしなやかで、バランスがとてもよく、これぞヴィユー・シャトーといった感じ。アフターにスパイスのアクセントが全体を引き締める。
2000ヴィンテージを味わうのはフランス以外ではこれが初めてとなるそうだ。 "クラッシックだが決して古臭くはなく、偉大で、かつファッショナブルなワインとなった"という。
1999 Vieux Chateau Certan
明るいチェリーレッドで、深みもある。香りはフルーツが中心で、ブルーベリーのコンポートにシナモンや丁子などのスパイスが加わる。全体にシンプルな印象。味わいはアタックからとてもスムーズでしなやか、直線的なバランスをもつ。タンニンはとても繊細で、味わい全体を心地よく包み込む。
1999-1997はメルローイヤーと呼べるもので、メルロー85%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%となった。ポテンシャルを考慮して、樽熟成期間を通常より短くしたという。
1998 Vieux Chateau Certan
深みのある濃いルビーで、香りはとても濃縮感があり、フルーツの印象が強く、豊かである。樹皮、鉄や土などのミネラル感もあり、奥行きがある。全体がとてもよい調和の中にあり、常にエレガント。味わいは丸みのある広がりをもち、肉付きもよい。芳醇なワインだが、酸味が透明感と上品さを与えている。タンニンも心地よく、ヴィロードのような触感を残す。
1998は干ばつのため、カベルネ・フランがよくなかったという。メルロー85%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%、カベルネ・フラン5%とカベルネ・ソーヴィニヨンとフランの割合が逆転している。メルローのキャラクターがとてもよくでているとティエンポン氏。そして、"ポムロールらしさが最大限に引き出せた"と付け加えた。
1997 Vieux Chateau Certan
ガーネット色。香りは開き、複雑性も感じられる。樹皮、スパイス、オレンジ・コンフィ、なめし革、土と鉄のミネラル感とポムロールの個性が十分に感じられる。まだ若々しさも感じられる。味わいには丸みがあり、やわらかで心地よい。全体にコンパクトだが、軽すぎることはない。タンニンは緻密で、余韻に動物的ニュアンスが感じられる。
いうまでもなく、1997年は難しいヴィンテージで生産量の半分がセカンドワインにまわされた。しかし、香りにはまだ若々しさを残すあたりはヴィユー・シャトー・セルタンがこういったヴィンテージに強いことを示している。
1996 Vieux Chateau Certan
濃いガーネット。香りはまだ閉じていて、ミネラル感が際立っている。まだ強く上がってはこないが、鉄分を含んだ土や枯葉、シダと複雑性に満ちている。味わいは芳醇でとてもなめらかで緻密。ツルンとした触感がある。広がる果実がチャーミングだが、酸味が与える上品さも兼ね備える。タンニンの構成がしっかりとして、余韻を酸味とともに伸ばしていく。サンテミリオン的個性を感じた。
1996年はヴィユー・シャトー・セルタンにとっても素晴らしいヴィンテージで、メルロー60%、カベルネ・フラン30%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%とヴィユー・シャトー・セルタンの典型的なアサンブラージュとなっている。特にカベルネ・フランがよくできていて、"Expressif =表現力に富んだ"という。チャーミングさ、サンテミリオン的というのはそういったところからきているのだろう。
ティエンポン氏いわく、"より自然につくれたものがよいワインである"と、1996年はまさにそういうヴィンテージだったという。
1993 Vieux Chateau Certan
深みのあるガーネット。鉄分を感じさせるミネラルと独自の土っぽさ(粘土が混ざったような)が際立っていて、複雑。動物的ニュアンスもあり、かなり発展してきているが、果実香も十分にあり、フローラルな印象とともにチャーミングさ、若々しさを感じさせている。味わいはリッチで、広がりがとても豊かで肉付きがよい。渋みはとても繊細で、全体のアクセントとなり、長く続いていく。
"カベルネ・フランにとって素晴らしいヴィンテージだった"とティエンポン氏は振り返る。カベルネ・フランとメルローが50/50だったという。ポムロールでここまで、カベルネが熟すのは本当に稀なことだと思う。カベルネ・フランはメルローのパワーを和らげ、そして複雑なスタイルへとなっていくのだそうだ。
1990 Vieux Chateau Certan
レンガ色がかったガーネット。香りは開いていて複雑だが、上品さや繊細さも感じられる。フルーツコンフィ、オレンジピールコンフィに粘土っぽいミネラル、スーボワと表現豊か。エレガントで複雑。味わいはしなやかでとてもバランスがよく、トリュフの複雑な香りが広がる。あじわいの要素すべてが溶け合い、調和の中にある。
メルロー60%、カベルネ・フラン30%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%
1989 Vieux Chateau Certan
レンガ色がかったガーネット。土っぽさがまず際立つ。炭やオー・ドゥ・ヴィ・ミラベル、そしてトリュフと素晴らしい複雑性が感じられる。あじわいはまろやかで、丸みがあり、とても繊細。タンニンはすでに全体に溶け込んでいる。あまり言葉がでてこないワイン。
1990と1989は気候的に似通った年で、とても暖かな条件のもと生育、成熟、そして収穫を行うことができたとう。1989も1990と同様の、つまり典型的なヴィユー・シャトー・セルタンのアサンブラージュとなった。この比率でワインが造れた年というのがやはりこのシャトーにとって本領を発揮できる年といえるのだろう。
1985年から指揮をとるようなったアレクサンドル・ティエンポン氏だが、まず"正確さ"をモットーとしてきたという。彼に代わってからの変化はと聞くと、収量を引き下げたこと、肥料や殺虫剤などをほとんど使用しなくなったこと、そしてセカンドワインをリリースするようになったことだと答えてくれた。
もうひとつ、特徴的な点は植樹年、つまり樹齢によって品質判断をしていることである。
ヴィユー・シャトー・セルタンの畑は23区画に分けられ、11のロットを造り(メルロー5、カベルネ・フラン4、カベルネ・ソーヴィニヨン2)、アサンブラージュをしていく。そして3つのぶどうは植樹年により、以下のように分類されている。

基本的にはラインより上がセカンドワインに回されるが、若木は3−4年たつとグンとよくなり、その後しばらく、品質が落ち、10年過ぎると今度は本当の品質を出していくそうで、たとえば、1994植樹のカベルネ・ソーヴィニヨンを1998には用いた。そしてそれ以降は使用していないという。
ぶどうのポテンシャル、状態を維持、向上させて、造りはいたって自然に行い、シャトーのもつ個性をしっかりと表してきたヴィユー・シャトー・セルタン。どんな急流にも揺るがされることもなく、その伝統を守っていくのだろう。2000ヴィンテージはティエンポン氏彼自身の最高の傑作になったという。そのワインが開花するのはまだまだ先のことだが、ヴィユー・シャトー・セルタン・スタイルが表現されるのは間違いない。





