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栃木県ココファームをたずねて

 

ココファーム

成長や発展は進めば進むほど、本質や本来の目的を見えづらい(振りかえりづらい)ものにしてしまう。そして完全にそれが大きなものになってしまうと、そう簡単にはやり直すことができない。

小さなボートなら片方の腕を休めるだけですぐの方向転換ができてしまう。しかしクィーンエリザベス号の進路を変えるために影響をうけるものの大きさは計り知れないのと同じことである。

―なぜ学ぶのか。なぜ働くのか。なぜこの道を選んだのか。

そんなことをワイン造りの話を通して自然に教えてくれたのがココファーム。

今回はこの栃木県の山間にひっそりとそして力強くたたずむワイナリーをリポートしたい。

 

■日本ワイナリーの新星

ココファームは1984年に設立した、日本でも新しいワイナリーだが、その品質は本家勝沼を脅かすものといっても差し支えがないことには多くのプロフェッショナルも異論はないだろう。

ココファームのもっともユニークなところはその設立は知的障害者の更生施設『こころみ学園』によるものであるということ。そしてワイン造りの目的は、そこに所属する園生の労働、自立にあるのである。

ココファームの方々 足柄に到着。バスで坂を駆け上がると素朴な笑顔で手を振ってくる20代前後の人たち。農作業をしているようだった。「こころみ学園の園生だよね」と言っているとワイナリーが急な斜面の反対側に見えてきた。昔からの友人を迎えるようにココファームのマダム、池上さんが出してくれたのは「NOVO」。

 

■すべて手作業のこだわり?

2000年沖縄サミットの首里城晩餐会で供されたスパークリングワインとしてご存知の方も多いだろう。リースリング・フォルテという国産ぶどうを用いた爽やかでクリア、心地よいバランスをもったワインである。

製法はシャンパーニュよりもシャンパーニュの原点に近いもので、すべて手作業のルミアージュ、瓶詰めも一本一本、園生たちの手によって行われる。これは頑固なまでのこだわりとか、マーケティング戦略とかではない。

「機械化したほうが効率がよいのはわかっているけど、そうしたら園生の仕事が減ってしまうから」だそうだ。

とはいえ瓶詰めはやはり難しい作業で、よく失敗しては売り物にならなくしてしまうのでやめようと思っていた時期もあったと言う。池上さんは「失敗するとそれが飲めるからよかったのに……」と温かい。「最近はみんな上手になってきて、あんまり失敗してくれないの」とこぼした。

NOVOの醸造はシャンパーニュと同じ10度に保たれた天然エアコンの地下セラーで行われている。

 

■日本人より日本を理解するワインメーカー

ココファーム 1989年より醸造責任者としてココファームに「すっかり居着いてしまった」と言うブルース・ガットラヴさんの案内により見学が進められた。ココファームは北関東平野に位置しているので気候は東京とあまり変わらない。

ワイナリーの周りに3ha、佐野に3ha、赤城山に2.5ha、熊谷に1ha、それに勝沼に契約栽培、白ワイン用として北海道からもぶどうの供給を来年から計画している。

「100%日本のぶどうで、日本の風土に適したぶどうを」とのポリシーに基づき、ワインに主に用いられているぶどうは日本独自のものが多いのが特徴である。

 

■注目はノートン?

小公子? 先にも述べたように、ワイナリーのぶどう畑はとても急な斜面にある。ワイン造りに斜面は欠かせないのは誰でも言うことだがそうではない。「急斜面での労働は脳によいからという理由からぶどう栽培を始めた」と言うのだ。

斜面上部にはマスカット・ベリーA、ブラッククイーン。これはトップ・キュヴェである「第一楽章」となる。中部にはカベルネ、ノートン。下部は生食用が栽培されている。

ノートンはアメリカ系のぶどうでヴィティス・エステベイラスというジャンルに属するそうだ。アメリカ系ぶどう特有のいわゆる「フォクシー・フレーヴァー」*が出ず、南北戦争のころはミズリー、ヴァージニアでもっともポピュラーだったぶどうだったという。

ミズリーはやはり日本と似た気候をもつ。まだ植樹から三年目だがここの環境によく合うのでは、とブルースさんはそのポテンシャルに目を光らせる。

もう一つ、ブルースさんが期待を寄せているぶどうは「小公子」。ペルシャ原産とされ、ヴィティス・アムレンシスに属する。アメリカのデュリフ【Durif】デュリフに似た風味を出すというスパイシーな個性を与えるこのぶどうはココファームのワインに新たなアクセントを与えてくれそうだ。

ここですでにココファームの確かなポリシーが感じられる。国際的に知られたぶどうを無理をしながら育てるのではなく、より環境にあった場所を探してあげる。こころみ学園の存在を背景に感じることができる。

*フォクシー・フレーヴァー【Foxy flavor】:ハイブリッド(雑種、交配種など)、特にアメリカ系ぶどう(ラブルスカ)にみられる独自の表現で還元ぶどうジュース、香水(すこしムスク)などを想わせるワインには好ましくない香りとされている。成分としてはメチル・アントラニレイトまたはO−アミノ・アセトフェノンに起因するとされ、コンコードがその代表品種。その風味が面白いとブランデーなどに用いるメーカーもある。

 

■温かな信頼関係

「いいワインは健全で完熟したぶどうから造られる」とぶどうの選果にはこだわりをみせる。「未熟ぶどうを摘み取ることは腐敗ぶどうでワインを造るのと同じこと」とブルースさんは続けた後、池上さんに「ごめんなさい」と頭を下げた。選果するということは量が減る。つまり売上が減ってしまうからである。2人の信頼関係がみえた。

収穫はできるだけ遅らせて完熟を待つ。もちろん手摘みでぶどうを傷つけないよう10キログラム入りのケースを使う。その後またトリアージュ、もう一度選果が行われる。100トン以上がロゼワイン用にまわされるそうだ。ここでまた池上さんをちらっと見るブルースさん。「池上さんがいないほうが話しやすいな」と本音がこぼれた。

 

■工夫とフォロー

ワイナリーにぶどうが迎え入れられるとまず破砕。この破砕もぶどうの個性に応じた形で細心の注意が払われている。たとえば甲州はフェノールが多いので軽めに、マスカット・ベリーAは粒が大きいのでしっかりと破砕を行う。その分、水分もより多く流れ出るのでセニエ(液抜き)をしてフォローをするという。

全工程を通して、できるだけ果梗や種子を傷つけないようにぶどうを扱うようにしているそうだ。

仕込段階ではできるだけ二酸化イオウは使わず、窒素ガスを使用することにより酸化をカバー、甲州はよりフレッシュ感を保つため、炭酸ガスをコンプレッサーで送り込んでいる。

できるだけ自然に。そしてその為にどのようなフォローをしたらよいかがよく工夫されているのだ。

「発酵が始まれば酵母が酸化の要素を食べてくれるので、そこからは酸化の心配はない」と、蔵ではあまりワインをいじらないという姿勢が感じられるブルースさん。

酵母は乾燥のものと野性とを求めるワインやぶどうに応じて使い分けている。発酵による個性が出るのはやはり野性酵母だそうだ。白ワインは13度(!)で2-3週間かけ、赤ワインは20度とどちらも低い温度で行っている。

 

■ありのままをボトルに

発酵を終えるとあとはワインはあまり手を加えない自然のままに瓶詰めとなる。そのためには資金をかけたという。無菌フィルター(甘口ワイン用)、無菌瓶詰めラインはワイナリーのちょっとした自慢だ。

「この設備投資はけっこう迷った。機械化すると園生たちの仕事が減ってしまうし、お金も……」。すると池上さんから「いいのよ! 10年後には左ウチワでしょ!」。

こういったやりとりはどこかクサク、くすぐったいものだが温かな気持ちにさせてくれた。瓶詰めラインだけでなく、醸造所全体が古いのだがとてもキレイに掃除が行き届いていた。

ぶどう本来の味ができるだけ残るように樽熟成はあまり長くしないようにしている。もちろんその期間はワインの状態により毎年違う。樽からテイスティングしたのは2001年の第一楽章。まだアサンブラージュの前だという。マスカット・ベリーA85%、ブラッククイーン5%、小公子7%で2001年はブラッククイーンのできがよかったそうだ。

外観は濃いチェリー・レッド。濃縮感のある香りはフレッシュ感もあり、巨峰、スミレなどのはっきりとした香りをもち、紅イモや石焼の香りが個性を与えている。味わいはピュアな印象でなめらか、生き生きとしている。果実の広がりを備えたキレイな酸味が心地よい。スパイシーな渋みはすでに繊細できめが細かい。

勝沼のマスカット・ベリーAが苦戦した「ワインライフ」のブラインド・テイスティングで第一楽章が上位を占めたのがごく自然なことだったんだなと想い返された。

案内をしていただいた後、テラスで飲んだスタンダード・ワインも心地よく、棚作りのぶどう畑の風景と風、自家製パンとともに自然な調和を味わうことができた。

 

■発展がもたらすもの

現在の生産量は18万本。もっともっと多くの人にこの日本のワインを楽しんでもらいたいものだが、これ以上の生産は考えていないという。

「これ以上の発展をしてしまうと、本来の目的が達成できなくなる」と言うブルースさん。

学園の方針をそのままワイン造りに、園生へのケアをそのままぶどうへと注いでいるココファーム。いつまでも変わらず、訪れる人を温かな気持ちにしてくれるのだろう。

 

■発展がもたらすもの

発展がもたらすもの

http://www.cocowine.com

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