
モレッリーノ・ディ・スカンサーノ
■脱DOCから
キアンティといえば、イタリアワイン筆頭のネームヴァリューを誇るグローバル・ブランドである。パスタをメインとするようなカジュアルレストランでも必ず置いてあるし、ホテルも同様でレストランのリストにキアンティがないとやりにくいとリクエストをよく受ける。
フィレンツェでふらっと入った店で料理を注文後、「ワインはボトルかハーフか」とだけ聞かれた。もちろんでてきたのはキアンティ。
そのあまりにも広まった名前と量の多さについてまわるのは、品質においての悪評でもある(本当はそうでもなくても)。
そんなイメージを振り払うべく名声を捨てたワイン、スーパー・ヴィーノ・ダ・ターヴォラ。
それらは産地名を名乗らず、高い品質と世界市場を目指した。その結果、イタリアワインのカテゴリーをひっくり返すこととなる。一番下のカテゴリーからトップクラスを超えるワインが生まれたのである。
その旗頭といえば、まずはサッシカイア(サッシカイアの場合は畑―DOCボルゲリ―が当時白とロゼしか認められなかったからという少し違った事情もあるが)。その影響力はとても大きく、ついにはDOCの規定まで変えてしまったほどである(1994年より赤も認められる)。ヨーロッパ諸国でのカベルネブームの火付け役であったともいえる。
「ボルゲリでも世界に通用するワインが造れるぞ!」
と次々に造り手たちは赤ワイン造りに励んだ。ボルゲリというDOCを掲げて。
ガイアをはじめ、外からの有力な生産者の参入なども、その上昇気流をより力強いものにした。
キアンティ・クラッシコやブルネッロ、モンテプルチャーノが内陸に位置しているのに対し、ボルゲリは海側。にわかに海側に位置するDOCが活気付いていくことになる。
■DOC回顧へ
一方、本家内陸エリアでは多くのブランドが咲き乱れた後、それらは徐々に整理、淘汰されていく。そして、自社ブランド(IGT、VdT)を続けることによって自身のアピールをしながら、DOC(DOCG)を造ることにより、その土地を尊重していくといった2wayでワイン造りを行っていくという流れが定着しつつある。
脱DOC(量産主義)から生まれたブランドワイン。それはまたDOC(品質主義、地元意識)へとつながっていったのである。
そんな中、ボルゲリに続いて注目を集めはじめた海岸線のDOCがモレッリーノ・ディ・スカンサーノである。恵まれた気候・風土、マレンマと呼ばれるエリアには独自の個性をもたらすサンジョヴェーゼが育っているという。
思いのほか日本に入ってきているモレッリーノ・ディスカヴァリーテイスティング。
■モレッリーノ・ディ・スカンサーノ アウトルック
エリア:
フィレンツェの南150km、ボルゲリよりも南側、グロセット県スカンサーノを中心として58,000ha(現在耕作されている畑は1,300ha)におよび広がる丘陵地帯。
標高は海沿いから500mとボルゲリに比べ、起伏に富んでいる。1978年DOC認定。
気候:
海洋性気候*1(ボルドーと同じ)。より温暖で、南北両側を流れるオンブローネ河、アルベーニャ河がヴァラエティに富んだミクロクリマ*2を生む。
*1:ボルドー独自の気候ともいえ、湿度が高く気温が安定するといった恵まれた条件を持つ
*2:直訳で微気候。独自の自然環境により生まれる気候の特性で、非常に小さなエリア(数mから数cm)を対象とする。このミクロクリマの微妙な違いがワインにヴァリエーションを与える。
土壌:
やはりヴァリエーション豊かで粘土を中心に砂、泥灰土、小石や片岩などが混ざる。
ぶどう:
モレッリーノ(この地方のサンジョヴェーゼの呼び名で、規定では85%以上)は黒みがかったというような意味があり、この地方のワインの色の濃さを由来とする。補助品種が15%まで認められている。特にアリカンテはこの土地の土着品種ともいえ、ワインに土っぽいミネラル感やタバコの香りと柔らかさを与えると尊重されている(もともとスペイン原産で、この地方が16世紀頃スペイン領であったことから古くより栽培されている)。
生産者:
協会に登録しているワイナリーが22件。
■モッレリーノ・テイスティング アンケート
【テイスターはこちら】
柳 / 川上 / 谷
【1】モレリーノのテイスティングを終えて。
【2】キアンティなど他のトスカーナ・サンジョヴェーゼと比べて。
【3】総評
■ 柳
【1】 期待を上回る良質のモレリーノの試飲できた。
キアンティ・エリアの造り手たちが、この周辺にぶどうの畑を集中して買い求めているのも納得がいく。
【2】玉石混こうのキアンティ、および、キアンティ・クラッシコと比べてブレが少ない。酸味は必ずあり、サンジョヴェーゼ系という感じもするがキアンティほど顕著ではない。冷涼な産地と聞いているが海に近く、キアンティよりも南なので果実の成熟度は高いのかも知れない。
【3】名前だけで売れてしまうキアンティと違い、生産者の頑張りを感じる。
価格にもよるが、「おいしいサンジョヴェーゼを飲みたい」という人にスっと出すのにはよい。頑張りすぎの造り手がいるにしても、こういう造りのワインが無名の産地には必要なのだと思う。
■ 川上
【1】すぐお隣のキアンティというラベルが貼ってあれば5000円の値がついていてもおかしくないクオリティのワインが幅広く揃っていた。定価が2000円から3000円程度と決して安いワインではないが、その支払った金額に見合う価値のあるものが大勢を占めるレベルの高さがあった。
【3】このエリアの課題はずばりマーケティング。
クオリティが高い上に優れたマーケティング力を持つ、GAJA、BANFI、ANSERMI等のようなカンパニー、あるいはボルゲリの様にエリアを挙げてプロモーションへの取り組み必要であろう。もちろん消費者にとっては比較的無名のうちが買いだろうと思う。
■谷
【1】 最近注目されているトスカーナのワイン、サンジョヴェーゼと聞いて、凝縮タイプのワインかと想像していたが、ほとんどのワインが品種の個性を重視し品種の味わいを前面に出したワインであった。
【2】キアンティの場合良い生産者ももちろんいるが、ネームヴァリューがあるので、名前にあぐらをかいている生産者もいる。キアンティをランダムに10種類集めたら品質に相当のばらつきが出ると思うが、このモッレリーノに関しては全てのワインが安定した品質を持っていた。
【3】モッレリーノの将来性。
イタリアでは、すでに注目されているワイン産地で、多大な投資もなされているようである。 気候的にも大変恵まれているようなので、今後、充分期待のできる産地だと思う。
■テイスティング結果
★★★★☆
Fattoria de Pupille/Morellino dei Scansano Riserva 1997
ファットリア・ディ・プピッレ /
モレッリーノ・ディ・スカンサーノ・リゼルヴァ1997
モンテ物産(株) ¥2000-
鮮やかで照りのあるチェリーレッド。
香りには濃縮感があり、同時に気品も感じられる。よく熟したカシスといった果実香が中心でそこにスパイス、樽、なめし革などの香りがバランスよく加わり複雑性と心地よさを与えている。
味わいのなめらかなアタックは厚み、上品なオイリーさを伴う。酸味はピュアでボディに溶け込み、素晴らしいバランスをつくる。タンニンは豊富だが緻密でヴィロードのような触感を残す。
Poggioargentiera/Morellino di Scansano Bellamarsilia 2000
ポッジョアルジェンティエラ /
モレッリーノ・ディ・スカンサーノ・ベラマルシリア2000
イーエックス・ワイン(株) ¥2500-
輝きのあるチェリーレッド。
香りは閉じているが濃縮感があり、鉄分ぽいミネラルが印象的でシナモン、ナツメグ、丁子などスパイシーさも感じられる。
味わいはアタックからしなやかでバランスがとてもよく、きめが細かな酸味が上品さを与える。アフターの渋みは大きなヴォリュームをもち、現時点ではまだアグレッシヴな印象を残す。
★★★★
Mazei/Morellino di Scansano Belguardo 1999
マッツェイ / モレッリーノ・ディ・スカンサーノ・ベルグアルド1999
東亜商事(株) ¥2500-
深みのあるチェリーレッドの色合いは紫のトーンを残す。
香りは濃縮感がありアロマテッィク。ブラックベリーのコンフィ、黒い土、乾燥した樹皮、小梅や赤バジルそして樹脂と広がりがとても豊かで、それぞれが調和のなかにあり、複雑性も備える。
味わいはなめらか、ふわふわとaerienな広がりをもつ。中盤からの心地よい酸味が全体を引き締めると同時にフレッシュ感を与える。渋みは繊細で心地よいアクセントとなる。
Fattoria de Pupille/Morellino dei Scansano 1999
ファットリア・ディ・プピッレ / モレッリーノ・ディ・スカンサーノ1999
モンテ物産(株)¥2200-
輝きのあるヴァイオレット・レッド。
香りは控えめだが発展した印象。コンフィチュール、メントールの香り。動物的ニュアンスもあるが抑えがきいていて、心地よさがある。
味わいは丸みがあり、まろやか。上品な甘みも感じる。酸味はしっかりとした存在感があり、フィニッシュで苦味とともに全体に溶け込む。
Morisfarms/Morellino dei Scansano 1999
モリスファーム / モレリーノ・ディ・スカンサーノ1999
(有)フードライナー ¥2000-
濃く紫がかった色合いはラズベリーカラーのニュアンスを持つ。
香りはフレーズ・デ・ボワからカシスと果実香が豊か。複雑性を与える土っぽさはテンプラニーリョを想わせる。カラメルなどの熟成感がもたらす香りも感じられ、奥行きがある。
味わいはふくよかな果実の広がりと豊かなボディが印象的だが、上品というか軽やかなバランスを保つ。渋みはすでになめらかで長めの余韻の心地よいアクセントとなる。
★★★☆
Fattoria dei Barbi/Morellino dei Scansano 1998
ファットリア・ディ・バルビ / モレッリーノ・ディ・スカンサーノ1998
日欧商事(株) ¥3000-
深みを感じるルビー色。
香りはまずメントールが印象的で黒い土、ドライハーブ、麦わらなどの香りが複雑性のアクセントとなる。
味わいはやわらく、スムーズなバランスで果実の香りがチャーミングに広がる。果実、メントール、熟成感がバランスよく感じられる心地よいワイン。
Poggioargentiera/Morellino di Scansano Capatosta 1999
ポッジョアルジェンティエラ /
モレッリーノ・ディ・スカンサーノ・カパトスタ1999
イーエックス・ワイン(株) ¥5500-
とても濃い黒みがかった色合い。
香りは樹脂、ローストと力強い樽からの印象とクレーム・ドゥ・カシスのような濃縮感があり、スーパースパニッシュのよう。
味わいはバランスがよく、タンニンはアグレッシヴと、とてもモダンスタイル。
■テイスティングを終えて
前評判どおり、ワイン産地としてポテンシャルを感じることのできたテイスティングとなった。しかし、新しい生産地(力を入れるようになった)ということもあり、アイテムごとのレヴェルの違いははっきりと感じられた。
■モレッリーノ(品種)の個性は……
他の地域(キアンティ、ブルネッロなど)のサンジョヴェーゼにはあまりでてこないメントール(ヴェジェタル)の香りが基本的にはあり、この香りがどのように感じられるかによって成熟度合いの高い低いが予想される。濃縮度の高いものにはほとんど感じられない。
■スカンサーノ(エリア)の個性は……
バランスのよさである。酸が豊富なサンジョヴェーゼにあって、その際立った酸味が中心の……といったキアンティのようなワインはなかった。その酸味は常にヴォリューム感のなかに溶け込み、ボディに上品な印象を与えている。酸味とボディのバランスが良いという点はブルネッロと共通するが、スカンサーノはよりやわらかく、チャーミングな果実香をもっている。そこにアリカンテからの土っぽさやキナのような香りが加わり、アクセントとなる。
少し冷やして果実味を強調すれば軽めの料理(前菜、素材重視の料理)と楽しめ、時間とともに複雑性(スパイス、ミネラルなど)がでてくれば、メインディッシュ(ロースト、軽い煮込み、ジビエもいける)にと食事を通してオススメしたい。
気候、土壌、ブドウそして造り手とそれぞれが心地よい調和を保つスカンサーノのワイン。ブドウ畑をめぐるツアーも盛んだというし、ボルゲリと同じく他地方からの参入のニュースもあとを絶たないという。
ワイン、ビジネス、観光と今後の発展をよそうd654、ボルゲリと同じく他地方からの参入のニュースもあとを絶たない。ワイン、ビジネス、観光と今後の発展を予想させるには十分な要素が揃っている。
■750mlの楽しみ
プリフィクスメニュー、カフェ丼やランチプレートにグラスワイン。急ぎ足で楽しまれる食事が主となる今、ボトル1本を楽しみたくなる、そんなワインが増えてきて欲しい。
モレッリーノ・ディ・スカンサーノはそんな期待を膨らませてくれるワインである。