
■天職
「あなたにとってソムリエはまさに天職だね」
何度か言われたことがある。そうかもと思うこともあるけど、ピンとこないところもある。
「学業は義務、仕事は意志」という言葉のとおり、仕事は自ら選んでするもの。やりたい仕事が天職となるのが理想だけど、そうはいかないことが多い。僕もソムリエが本当にやりたい仕事と自覚するようになったのは意外と最近のことで。『ソムリエコンクールで優勝したメートルドテル』なんてカッコいいと憧れて、勉強をしていた。
ワインだけしか扱わないなんて面白くない。オーダーテイクやワゴンサービス、お客様との会話……、ワインを開けてはバックスペースにいつもいる人になるのはつまらないような気がしていた。でもその考えは間違っていた。というよりもその考えは進化したというほうが近いかもしれない。
とはいえ、みんなに「ソムリエに向いている」、ソムリエのユニフォームより気にいっていた燕尾服(メートルのユニフォーム)だが、「タブリエのほうが似合っている」と言われる。
自分のどんなところがソムリエに合っているのだろう?
そもそもどんな性格がソムリエ向きといえるのか。1998年の世界最優秀ソムリエコンクールウィーン大会でソムリエに求められる資質を問う設問があった。
《1》優れた人間性(好感のもてる)
《2》知識
《3》テイスティング能力
《4》経営センス
《5》教育能力
と僕は答えた。
《2》と《3》はまず思いつくところだ。これはソムリエ以外の方でも浮かぶと思う。《4》と《5》はこれからを展望した部分として入れた。もっとあるのだが"5つ"という設定だったので以上となった。
《1》は合っているようで、かなり漠然としている。人間性がよいといっても、その中でそれぞれ性格や好み、得意不得意は違う。コンクールの解答はいつも発表されない。
僕は毎日の出勤がイヤとも、休みが待ち遠しいとも感じたことはないし、人から「向いている」と言ってもらえるのだから、これを天職と思うべきなのだろう。そう思うようにしている。
■職種と性格
「ソムリエ向き」とは、を考えていたら、あらゆる職業にもそれはいえるのではと気づいた。
その仕事が向いているか否かを決める要素は性格と能力の2つになると思う。
職人業では性格よりも能力がずっと重視されると思う。いわゆる天才、鬼才というやつだ。でも性格を重視する声もある。イタリア、ヴェネトの三ツ星レストラン、『レ・カランドレ』のシェフ、マッシミリアーノ・アライモ氏は求められる資質を、
《1》センス
《2》何事にも動じない性格(安定した)
《3》リーダーシップ
《4》技術
という順で挙げており、人間性の重要さを示している。彼自身はまだ28歳という若さである。
レストランのサービススタッフにとっては、性格はなによりも優先されると思う。これは誰でも実感していると思う。ファミリーレストランや小規模のお店で、よくみられることで、一番の古株でバリバリと仕事をこなしているスタッフ。作業に追われながらも不慣れなスタッフに指示を飛ばしている。こんな人にはものを頼みにくい。そのきつそうな性格は客側であるこっちにも伝わってくるし、1m手前まで恐い顔をしている人に好感をもつことはできないからである。
対して、オーダーを2回聞き返されても、頼んだビールがなかなかでてこなくても、ワインのコルクを折ってしまっても許せるサービススタッフもいる。結果的には快適に過ごせて記憶に残るなんてこともある。これはその人のほがらかな性格のおかげなのだと思う。
接客に関しては、仕事ができるよりは、少しのんびりしているくらいのほうがいいのである(もちろん限度はあるが)。
■フロントとレストラン
個人の性格に関わらず、仕事が人間性に影響を与えるケースもある。たとえばホテルにあって、そのセクションにより性格に共通性があるというか同じような雰囲気を感じることは多々ある。
ホテルのサービスは宿泊と料飲が大きな柱となっている。この2つの職種、ホテルマンという一つの言葉で表すのはかなり無理があるほどに性格が違っている。
特にフロント(チェックインカウンターの中のスタッフ)とレストランとではサービスのアプローチがまったく違うものである。
ニューオータニでは"ゼネラリスト"育成のため、フロント←→レストランのローテーションを行っているが、どちらかで素晴らしい仕事をした人がもう一方でも同じ成果をあげているケースはほとんどないのではないだろうか。
フロントの同期の友人によると"正月期間、コーヒーショップで働いたけど、まったく畑違いで新入社員のようなものだった"という。何がそこまで違うのか。
フロントのサービスはお客様がホテルにやってきた時点では始まらない。カウンターにやってきてはじめて「May I help you ?」となる。しかしチェックインのため、レジストレーションカードを作成するのはお客様自身だし、部屋まで案内するのもフロントスタッフではない。
彼らのサービスは常にカウンター越し、電話越しに行われる。"カウンターの中にいると接客の感覚が違ってくる"との同期の言葉。
でも彼らのサービスが劣っているわけではなく、彼らがいなければホテルはオペレーションしないし、どんなに機械化、人員削減がすすんでも、なくなってしまう存在にはならない。
フロントではお客様がサービススタッフに歩み寄ってきて仕事が始まる。お客様と距離があるとはいえ、チェックインからアウトまで短くとも1日以上という長い間がサービス時間となる。
対して、レストランでは予約、来店を除くと常に我々から歩み寄っていく。お客様との距離が短く、楽しんでいる様子、時に不快に思っている様子を目の当たりにする。当然、お客様からもみられている。そして来店から会計まで長くとも3時間とフロントに比べ、サービス時間がとても短い。
距離があり、長い間お客様と付き合うフロントではサービスはよりクールでさっぱりしたものになる。距離がなく、短い間のレストランでは、我々はより積極的で、前向きな姿勢になる。
フロントでは客室に電話をかけてあれこれ御用聞きをするよりもお客様に言われてから的確に動くのがよい仕事となるが、レストランではお客様にいわれる前に動いていることが望まれる。
■メートルタイプ
メートルドテル Maitre d'Hotel
直訳すると、メートル=マスター、ドテル=館、つまりレストランの最高責任者となるが、現実的にはその上にディレクター(支配人)、オーナーが存在するので、サービスの最高責任者という役割を担っている。お客様をダイニングルームで迎え入れ、オーダーテイクや料理のサービスや説明、そしてお客様がお帰りになるまであらゆることに気を配り、責任をもつ。不備がないように常に目を光らせている。
トゥールダルジャン支配人の「メートルドテルはスパン(担当テーブル)のすべてを支配する」との言葉どおり、メートルドテルは支配的で、慎重、卒がなく、手先が器用な人が多い。
料理の説明は得意だが、オススメはあまりしない。これはミスをしないようにとの堅実さが影響している部分があるが、それ以上に「食べたいものがわからない」というお客様はほとんどいないので、オススメが必要不可欠とはならないことに理由があるだろう。自然と受身の姿勢になりやすくなる。
もちろん、これはレストランのスタイルも大きく影響をしていて、オススメを頻繁に行うレストランもあれば、みんな揃ってオススメをしないレストランもある。
担当テーブルや役割がはっきりと分かれているので、セクショナリズムが強く、派閥をつくる傾向もある。"日本人は5m横をボールが通っても、それがポジションの外であれば動かない"、というトゥルシエ元監督の言葉はそのあたりをよく表している。
しかし、こういったマイナスイメージでさえも、レストランを支配するものにとっては都合がよいのだろう。フランスでも、日本でも支配人はメートル出身者が圧倒的に多い。
■ソムリエタイプ
ソムリエの語源はエシャンソン、またはエシャンソヌリという言葉、仕事で、王様が遠征をする際の大切なものが積まれた貨車の責任者からきている。その中にはもちろんワインがあり、そのうちに宮廷で食事をする際のワインのサービスを担当するようになった。これがソムリエの始まりである。
再び、トゥールダルジャン支配人の言葉を借りると、"ソムリエとは王冠の正面のダイヤである"。かなりソムリエを昇華した表現だが、こんな意味があるのだと思っている。
「あればそのもの価値自体とても上がるが、陳腐なものだとかえって安っぽくなる。そしていつもそれは磨かれていて、輝いていなければならない」
そんなソムリエの性質だが、民主的で、向上心が強く、奔放、瞬発力や集中力があるが、持久力がない。自分の考えやスタイルをしっかりと持ち、主張も強い。説明が得意で、オススメを好み(ときに強すぎることも)、分析や整理も得意としている。一方では排他的で、飽きっぽく、落ち着きがない。
こうみてみると、メートルは日本人的な性格をよく反映していて、ソムリエは欧米人的なのがわかる。
ソムリエはメートルに比べて、接客の時間が短く、線というよりは点である。食前酒を伺い、サービス。ワインを伺い、サービス。あとは注ぎ足し。ワインを開けた後はこちらから歩み寄らないと仕事は始まらない。対して、メートルはお迎え、オーダーテイク、料理のサービス、そして会計。ダイニングから離れることがなく、つまり点というよりは線となる。
エリック・ボーマール*にカナダ大会での実技課題の話をしたときのことで、 「メートル不在だから代わりにサービスをしろだって? メートルはどこいった !? どこだー!って探すの?」 とおどけた。
そして、こう付け加えた。
「いや、ソムリエがメートルを探すんじゃない。探すのいつもメートルのほうだ。『ソムリエはどこにいった?』でメートルはいつも困ってる。ソムリエってのはすぐどこかに行ってしまうからね」。
エリックは明るく笑いながらも、複雑な表情をしていた。
*エリック・ボーマール:パリ、ジョルジュサンク『ル・サンク』支配人兼シェフソムリエ。リュイナール杯においてヨーロッパチャンピオンに輝く。1998年世界大会第2位。知識、技術はもちろん、その豊かで愛される人間性から国内外に数多くのファンを持つ。
■S
今回どうしてこんなことをコラムにしたかというと、メートルとソムリエの性格の違いを考えてみたことによって、ソムリエというものがより理解できたような気になれたし、メートルのことも理解が深まった。他人を許せるようになったからである。
また、自分にあった仕事がみつからない、どうも今の仕事がしっくりこないという時に、こんなことを考えてみるといいんだなあという、ひとつの解消法のようなものと思ったからである。
自分の性格というのは、一番自分が解っているようでそうじゃない。「きみってこんな性格だよね」と人に言われても納得いかないことも多い。自分にあっている仕事を見つけたとき、それが自分の性格を表しているじゃないかなと思う。
もちろん、性格を自分で改善することだってできる。ソムリエの性格で挙げた悪い点を少しずつ改善できれば、レストランのゼネラリストになれんだと思う。
ソムリエタイプの部分を書いている時、あるソムリエがずっと頭の中にいた。その人は"まさしくソムリエなんだ"とあらためて感じた。その人は誰かというと……。





