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写真

 

写真をはじめて、本当によかったと実感している。

写真をはじめて、本当によかった「子供のために」と妻にのせられて買ったカメラだけど、結局ハマったのは僕のほうだった。 トゥールダルジャンにも写真好きが何人もいて、一年ほど前に写真部が結成されている(部長は谷宣英)。季節ごとに開かれるコンクールは『写るんです』から転職でも考えているのかと思うような器材を揃えた者までが参加している。

過去4回のテーマは、「春、みつけた」、「東京」、「涼」、「癒し」、そして現在選考中なのが「黄昏」。回ごとにレヴェルが上がってきていて、1回目、2回目は優秀作品に選ばれたが、最近は快心の出来でも難しくなっている。どうやら今回も優秀賞は無理そうだ。

ただキレイな写真をとればいいわけではない。技術、ヴィジュアルはもちろん、テーマの表現力、創造性、アングル、みる側を意識した写真が求められる。快心の作品が入賞しないのは僕がまだまだ自分本位や自己満足で撮っているからなんだろう。

ポイントはわかっているのだけど、なかなか……。次回はがんばろう。

優秀作品の栄誉だけでなく、いろんな変化を写真は与えてくれた。身の回りのふとしたことや場面に目がとまる。「いい写真がとれそうだ」と胸が小躍りする。

物干しのティッシュの照々坊主に陽があたっているところやベランダのテーブルに枯葉がのっている。そんな日常に目を向けられるようになった。

毎日の通勤風景やいつも寝ている和室も、アングルを変えると「こんなふうにみえるんだ」、「そんな悪いもんじゃないな」と思える。

季節の変化にも敏感になった季節の変化にも敏感になったようだ。木々の葉の色や陽射しの加減、建物にあたる夕日の色なんかにも目が止まる。いい写真を撮るために遠出するのにも限度がある。となると日常にいかにいい構図をみつけるかという姿勢が自然と習慣になっているようだ。

突然、窓から飛び出してはしゃがんでカメラを構えたりもするので、家族には、「あんなところで、なにやってるんだろ?」と奇妙がられる。

とにかく「なんでも絵になる」姿に自分の中で変えてしまう。これは空想癖でも、感傷的でも、現実逃避でもなくて、日常をより楽しめるようというとても確かなことだと思ってる。

逆光の写真が好きで、まっすぐ遠くまでみえる構図も好きだ。自分で撮り始めるまでは、ピントはしっかり手前から遠くまで合っている写真を好んだけど、最近はピントが少しずれた感じのも味わいがあるように感じている。

日本でもっとも多い血液型の性格どおり、きちんとしているものが好きで、雑然よりは整然のほうを快適に思う。これはソムリエにとっては結構大事なことで、ワインにまつわる膨大な情報や知識を整理する、テイスティングによって知ったぶどうの個性やワインの個性を整理するのにこの性分はとても役立つ。

でもいいことばかりでもない。出勤して事務所がちらかっていると、気になって片付けに時間をかけ過ぎたり、時に先輩にあたったりもしてしまう。いろんなタイプの人たちとやっていかなきゃならないのは解ってるのだけど。

家にかえっても同じで、床におもちゃや靴下がころがっているのが落ち着かなかった。妻に当てつけるようにイライラと片付けをしては雰囲気を悪くすることもあった。生活感をだすのがいやだったのだと思う。

そのストレスも最近は解消されつつある。子供たちが片付けをできるようになったわけではなくて、僕の見方(=アングル)が変わってきたようだ。

深夜、遅くに帰宅後、食事をとっていて、「こんなふうにおもちゃや靴下があるのは、みんながそこで過ごしていたを伝えてくれてるんだよな」とふと思った。急にあったかな気分になれた。そう気づいて以来、帰ってからイライラすることはなくなった(といっても限度はあるけど)。

考えてみれば、生活感を無くそうとするのは、生きていないようにみせるのとそう変わりはないのではないのかな。

写真を始めてよかったこと。

それまで見過ごしていたような日常のほんのささいなことに目が向き、感動を覚えられるようになったこと。アングルや背景を変えることで違った見方ができるようになったこと。同じように繰り返される毎日の小さな変化に気づけるようになったこと(とはいっても、この間いろんな物が乗っかった食器棚がきれいになっているのに気づかなくて、妻におこられたけど)。

心が少しだけ豊かになったあと、完全じゃないことを許せるというか、受け入れられるようになったこと。

心が少しだけ豊かになった気分になれること。

考えてみれば、ソムリエってそんな仕事だと思う。

日常化したレストランというお客様にとっては非日常の場所で、お客様のちょっとした違いに敏感さを保ち、それに合わせ動いていく。

時には受け入れられないワイン、接しづらいお客様やスタッフ、満足しきれない環境や日常、そんないろんなものの見方(=アングル)を変え、最大限の美味しさをみつける。

そして、心を豊かにすること。

みんな写真を始めてから実感したソムリエとの共通点である。

どんなことにでもいえることだとは思うが、夢のような環境なんてどこにあるわけではない。自分の置かれている環境を楽しむこと、幸福を実感できることがなにより大切で、それができなくて新たな環境を求めるというのは、結局悪循環の繰り返しになると思う。

僕自身ももちろん思ったことがある、「フランスへ」という希望。無駄なことなんてない。それは必ずプラスになることだけど、今現在、自分の置かれた環境や日常によろこびや感謝をもてずに、現実逃避はどうかとも思う。

サービスといっしょで必ずしもよい仕事が評価されるわけでない写真。だからこそ楽しい。あらゆるズームやいろんなアングルを試行錯誤して、いい写真をたくさん撮れたらいいなと思っている。

僕にとって、日常を楽しむ、感謝するのに一番たいせつなのは家族。今年もクリスマスは一緒に過ごせそうもない。でも楽しみを見つけることはできそうだ。去年よりも大きくなったツリーと子供たち、家中にリースを飾る妻と……、束の間の Happy Christmas を大事にしたい。家族よりも長い時間を付き合う仲間と忙しくとも過ごせるのだから、それだけでも感謝しなきゃいけないのかな。

メリー・クリスマス

今年もこのコラムを楽しみにしてくれたみなさんにも。

働く人も、遊ぶ人も、笑って過ごすひとも、そうでない人も、

メリー・クリスマス!


Photograph: Hiroshi Ishida
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