
■終わりよければ・・…
「終わりよければ、すべてよし」という言葉を知っているか。
高校時代、恩師にこう聞かれたことがある。(野球で)僕が失点をするのはいつも2アウトをとってからと最終回だった。ポンポンとアウトを2つとった後、フォアボールを連発、しまいにタイムリーヒットかワイルドピッチで失点という、指揮官にとってとてもイライラするプレイが僕の癖だったからである。
ダブルヘッダーの練習試合。1試合目をそこそこの内容で終えた僕は2試合目に登板がないこともあって、すっかりリラックスしていた。劣勢に立たされた2試合目、急きょリリーフとなった。1試合目同様、快調に抑え、さあ最終回。マウンドでつまずいてボークを取られてしまう。あまりにも滑稽な姿に自分でも笑ってしまった。試合後、「たるんでいる」と主審をしていたOBに張り倒された。その日、もっともよいプレイをしていたはずなのに。
その癖は結局直らず、新入部員で一番初めにベンチ入りを果たした僕は最後の夏をスタンドで過ごすことになってしまった。
■ワイン味わいのコツ《1》
テイスティングでもっとも重要なポイントはなにか。外観、香り、味わい、サービス法や料理……。言い換えれば、見ること、嗅ぐこと、飲むこと、そして考えること。
テイスターが一番時間をかけるのは、嗅ぐことである。
ソムリエコンクールでも、よくみられるのは嗅いでいる姿だと思う。レストランやバーでもテイスティングのセオリーを知っている人は嗅ぐことに時間を十分かける。
香りでわかることを挙げてみると、
【1】ぶどう品種
【2】醸造方法
【3】熟成(期間、容器)
【4】産地の個性
【5】熟成の進み具合
【6】将来性
「ワインは飲み物というより、嗅ぐ物か」と思ってしまうくらい、あらゆる情報がつまっている。ヒュー・ジョンソン氏は、「ワインテイスティングの80%は香りで決定される」といっているくらいだ(吉田誠*は、「バス旅行の80%はバスガイドで決定される」といっている)。そう、一番大切なのは嗅ぐことにある。
* 吉田 誠―トゥールダルジャンソムリエ。2000年ポメリースカラシップ第2位、第3回全日本最優秀ソムリエコンクール、ファイナリスト。所沢在住。愛犬の名前はマロン。
香りにすべて託せばいいのか? そうでもないことがある。
ブラインドテイスティングをして、「ニューワールドの赤ワインとボルドー・グランヴァンの軽めのヴィンテージのどちらが高いか」を言い当てるのは至難の業だ。フランスの重鎮たちも、自国の特級銘柄より、カリフォルニアワインに1票を投じてしまうくらいなのだから。
その落し穴は香りとインパクトにある。時間を一番かけて探る香り、これが強ければ決断にかなり大きな影響を与える。その結果、本当の価値を見紛うことになるのである。
言い換えれば、香りに集中し過ぎると、本来の価値を見過ごしてしまうということだ。
■味わいのコツ《2》
味わいでみる点は、
【1】アタック(口当たりの強弱や印象)
【2】ボディ(中盤の広がり)
【3】酸味の強弱や印象
【4】2と3のバランス
【5】口中で広がる香り
【6】アフター(苦味または渋み、残る味わい)
【7】余韻
ここでは分析的なこと、つまり結果は直接的にあまり判断できない。情報量が少ないのである。しかし、それぞれの要素には大切なことが含まれていて、香りで得た情報をより完全なものにしてくれる。例えば、3や4で産地の気候条件や畑の個性がわかるし、3、5、6は品種の特定を助けてくれる。
香りは一瞬で情報がたくさん入る。とても便利で現代的だ。それに比べると味わいのそれぞれはぼんやりとしていて、わかりづらい。でも時間をかけて、それらがわかるようになれば、それはとても安定した確実なものだし、本当の意味でテイスティングが身についたことになる。ワインを利くことをスメリングとは決して言わないのだから。
そして、味わいの要素でもっとも重要だと思うのは余韻である。特にソムリエにとって。すべての香りや味わいの要素はこの余韻に集約されていく。最後まで残る香りや味わいがそのワインを形容する個性をつくるわけだし、その個性に合わせて、温度、グラス、料理などとソムリエは動いていくからだ。強引な言い方をすると、味わいの余韻だけをしっかり捉えれば、他を見なくてもワインのサービスは十分にできるということである。
そして、余韻の長さでワインの価値は決まる。もちろん、ものの価値というものは、人によって様々なものであるのだが、この場合価格という面において。
長ければ長いほど、そのワインの価格は高くなる。余韻がすぐ切れる高価なワインというのは存在しないはずだ。といっても長いにも限度があるし(吉田誠は2日間続く余韻を経験したことがあるいっているが、その場合は余韻ではなく思い出という)、2000円の AC Bourgogne が5秒なら、Romanee Conti が500秒ということにはならないが。
しかし、少なくとも香りの強弱に関わらず、1級より特級、セカンドワインよりグランヴァン、難しいヴィンテージのものより恵まれたヴィンテージのほうがいずれも余韻は長くなる。
ワイン味わいのコツは香りだけではなく、味わいの、それも後半と余韻にあると僕は思う。
■インタビュー
ある芸能リポーターがテレビで言っていた。
「インタビューはテープリコーダーをとめ、ノートを閉じてからが大事。そこから本当のインタビューが始まる」
テープが回り、ノートを取られている状態は誰だって身構える。そこに本音は出てこない。聞き手と話し手の壁を取り払ってからが本当のインタビューになる、ということだ。
その人がどんな記事を書くかはともあれ、感心した。余韻という言葉とつながるものを感じた。
ある平穏な午後、出社すると、朝から出社しているスタッフが何もせずにただ座っていた。
「明け番業務、すべて終了しました」と誇らしげだ。やることはやったので、あとは上がるだけだとでも言い出しそうなくらいだ。「ノートを閉じてからが本当のインタビュー」という言葉が頭に浮かんだ。
でもこれと似たようなことはどこの職場でもあり得るのではないか。特にレストランは稼動の浮き沈みが激しいことがある。汗びっしょりになって働く日もあれば、お客様よりやることがなさそうな日もある。「やることがないから……」有り難いことに、こんな風に過ごす時間にも給料は支払われる。
優秀な新入社員の名ゼリフ、「マニュアルどおりやっています」や、「僕の担当ではありませんから」も同じようなことだと思う。
先述のリポーターの話に置き換えて考えたらどうか。
デイリーワークを終えてから、マニュアルをこなしてから、担当業務を果たしてから、そう、与えられたことを終えてからが本当の仕事になるのではないだろうか。そこからがプロの仕事ということになるんだと思う。
■メッセージ
ニューオータニの給与システムが11月から変わった。住宅手当、家族手当といった基本給に加算される諸手当を廃止、給与は基本給とプロフェッショナル給という2つだけの構成になったのである。基本給はもちろん働いていれば誰でもふつうに貰える。言い換えればデイリーワーク、マニュアル業務、担当任務の対価である。対してプロフェッショナル給は語学やその他プロとしての能力、売上貢献度や教育者(リーダー)としても資質などに応じて額が上下する。
これは単にシステム改正でなく、メッセージのように感じた。
与えられたことをきっちりこなす優等生はもう報われない。その先を求めていくべきなのだと。
何においてもある物事が終わる間際、終わってからを大切にする。これこそソムリエが身につけたテイスティング技術の実践であると思う。
余韻を大切にするということ。
より高いプロフェッショナリズムをマスターするために。