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■ソムリエの生命線「このお料理にはこのようなお料理が……」 ソムリエの専売特許のようなもので、この相性の提案こそがソムリエの最初の一歩であり、生命線といえるだろう。 ソムリエの格好をしてリストを手渡すと、 「よくわからないので、お料理にあうものをと」 とよく言われる。そう言われなくても「お料理には……」 と、こちらもほとんどの場合こう切り出す。何百とあるワインの味わいの違いを厳密にお客様に伝えるのはまず無理である。お客様に専門用語が使えるのであれば随分楽なのだけど。 となるとお料理の相性を切り口として、ワインを紹介するのがもっとも説得力を持つようになる。もちろん、いろんな工夫をして、違ったアプローチによってワインをよりわかりやすく紹介しているソムリエの方もたくさんいらっしゃるのだとは思うのだが。 コンクールでもそうだ。 ワインと料理の相性は繰り返し求められる。予選の筆記試験、本選の実技、そしてファイナル。参加するソムリエがこの相性論から逃れることはできない。 そんなに大事なんだろうか。
■相性のかたち良い相性とは? 考えてみる。大きく三種類に分けられると思う。 1. 味覚、風味、素材の強弱や価値などにおいて釣り合うもの。 2. 相反する香り、味わいを融合させることにより、第三の風味を創りだすもの。 3. 地方料理とその地元のワイン
1. 味覚、風味、素材の強弱や価値などにおいて釣り合うもの。これはいわゆる順当な相性。ペッパーソースの料理にコショウの香りを特徴とするワイン、鴨や鳩、鹿など鉄分の風味が特徴的な素材にはその風味を持つワインなどなど。 これらの相性は誰にでも受け入れられるもので、ソムリエにとっても、これを最優先として良い相性を考えることが多いのではないかと思う。少なくとも僕はそうである。 少ないながらも、これまでに蓄積してきた知識と経験から、僕がセオリーとしている良い相性を挙げてみる。 【白ワイン】 ●酸味が豊かでミネラル、フローラルな印象のワインex) リースリング(オーストラリア、オーストリア) ソーヴィニヨン(サンセール、カリフォルニア) シャブリ ピュリニー サントーバン リュリー グリュナー・フェルトリーナー シャスラ ジャケール ルーセット
【合わせる料理】 素材重視の料理: 加熱、ソースなどをほとんど用いていない素材の味をストレートに楽しむ料理。
ex) 高級懐石、イタリアンやフレンチではカルパッチョやヴァプール(蒸気で蒸す)などシンプルな調理法によるもの。
●まろやかで(酸味が優しい)、フルーティーさが中心のワインex) ヴィオニエ シュナン ピノ・グリ ゲヴュルツ シャサーニュ サンロマン マコン
【合わせる料理】 加熱(ソテー、スモーク、グリルなど)、ソースに存在感がある料理。
ex) フランス料理一般、ビストロ料理、中華やエスニック。
●力強く、(熟成による)複雑性豊かなワインex) ムルソー ブルゴーニュ白グランクリュ アルザスリーリング・グランクリュ サヴニエール ペサック・レオニャン・グランクリュクラス など、ある程度熟成したもの。 【合わせる料理】 高級(かつ伝統的)フレンチ、ロースト、ブレゼなど味を加えながら加熱し、さらにソース、ガルニチュール(キノコなど)により、強さや複雑性を強めたもの。
【赤ワイン】 ●フルーティーで軽い味わいのワインex) あらゆる品種の軽いタイプ。 特にガメイ ピノ・ノワール カベルネ・フラン メルロー キアンティ
【合わせる料理】 バーベキューなどいわゆる焼きっぱなしの料理、パテやテリーヌ(肉系の)、香りに個性のある魚を使った前菜(サーモンやひかりもの)、フレッシュ・チーズ
●メディアムボディ、果実味を主体にスパイシーで程よいタンニンのあるワインex) クリュ・ボージョレ グルナッシュ主体 南仏のメディアムボディ・タイプ ジンファンデル ドルチェット テロルデゴ モンテプルチアーノ・ディ・サグランティーノ、 キアンティ・クラッシコ
【合わせる料理】 フルーツソースを添えた肉料理(鴨、鶏肉、豚肉など)、中華、エスニック、レバーやリー・ドゥ・ヴォーなど内臓料理(スパイスを使った)、シェーブル・チーズ(若め)。
●力強く、芳醇なタイプex) ブルゴーニュ・プルミエ・クリュ以上 (特にモレ・サン・ドニ、ニュイ・サンジョルジュ、アロース・コルトン、ボーヌ) サンテミリオン他右岸AOC (コート・ドゥ・フラン、コート・ドゥ・カスティヨン) シャトーヌフ・デュ・パプ
【合わせる料理】 赤身の肉(鴨、鳩、鹿、牛肉など)、フォワグラでソースがたっぷりあるか、煮込んだ料理(ウナギなどもよい)。ウォッシュ・チーズ
●がっしりとした構成、タンニンの豊富なワインex) カベルネ・ソーヴィニヨン ジュヴレ・シャンベルタン ポマール ネッビオーロ テンプラニーリョ ムールヴェドル(バンドール) サンジョヴェーゼ(ブルネッロ) タナットゥ
【合わせる料理】 赤身の肉(羊、牛肉、鹿など)のロースト、シンプル(肉汁を主とした)なソース、白カビ・チーズ
●酸味によるバランス、上品なタイプex) ブルゴーニュ (シャンボール・ミュジニー、ヴォーヌ・ロマネ、ヴォルネイ) ペサック・レオニャン サンジュリアン他 熟成したすべてのボルドーまたは上のカテゴリーで熟成したもの
【合わせる料理】 素材、調理法などにおいてあらゆるタイプ。素材重視の料理(鶏肉、ウズラなど)または洗練された高級料理。コースメニュー、複数の皿に1種類という場合によい。
2. 相反する香り、味わいを融合させることにより、第三の風味を創りだすもの。これが最もクリエイティヴで難度が高い。 新しいもの好き、野心に満ちた人が好む相性だが、成功率は極めて低い。テレビや誌上ではある程度の提案は可能であるが、レストランでこれを試みるのは危険が伴う。オーナー・ソムリエであれば、お客様もある意味、その方の個性に触れたくてというケースもあるので少しは考えられる。 それ以前にこのクリエイティヴな相性をみつけることが難しい。 実際に食べて、合わせてみて、発見するということになるだろう。おそらく大丈夫であろうとふんでも、どこか不協和音を起こすか予想がつかないのである。 もし、実際に合わせてみなくても、この難解な相性をクリエイトできる人がいるとしたら、それは本当に羨ましいことだ。絶対味覚の持ち主といえよう。その域まで達してみたいものだ。
3. 地方料理とその地元のワインフランスやイタリア、スペインなどワインを日常的なものとしている国では、その土地の料理に理屈抜きで、地元のワインを楽しんできた。これらの相性は理にかなっているものもあれば、多少の矛盾があるものもある。 しかし、それは常に心地よいもので、特にその地元で味わいことができれば、それ以上のものがないようにすら感じさせてくれる自然で、恒久的な相性なのである。香りがどうとか、味わいがどうとか、そんな分析的なものを超えた尊重すべき調和といえる。 説得力もしっかりとある。ワインは気候風土、そしてそこに住む人の影響を大きく受け、個性となる。地方料理も同じことで、その地の素材を、その土地の気候や習慣、住む人たちの嗜好などによって出来上がる。つまり、ワインも料理も素材の段階から造られる段階、消費される段階まで、つねに同じ要素の影響を受ける。これ以上の共通点をもった相性があるだろうか。 ■あるようで、ないようでではもっともよい相性とは何か。 順当なのが1。クリエイティヴで驚きに満ちたものが2。そして定番が3。 コンクールで考えてみよう。 コンクールでの審査では意外に決定的なポイントにならないのが、実は料理とワインの相性、というのは相性には考え方や好みに違いがあるからである。 例えば、前菜のフォワグラにソーテルヌを提案したとする。王道中の王道でこれをよしとする人もいれば面白みにかけるという人もいる。食事のスタートには重過ぎるという人もいれば、影響はそれほどないという人もいるだろう。 審査をする人がどのような環境にいたによっても違う。 トゥールダルジャンや古くからあるホテルのメインダイニングで務めていた人はこの王道をよしとするだろうし、ほとんど独学、自己流でその仕事を突き詰めてきた人はおそらくよしとはしないだろう。神経のこまやかな人は重過ぎるというだろう。性格によっても違うものである。 こういった審査に正解は用意されていないので、どんな提案でも全員が満点をつけることも、0点をつけることもない。なので正解は、それが明確に認知されているものということで地方料理とその地元のワインがコンクールではフェアなものとなるだろう。 それではこの地元同士の相性が最良か。現場ではどうだろう。 この自然な組み合わせは完全なものか。難しい部分も考えられる。レストランという洗練された場所では、東京という都会では、素朴すぎてしまう場合もある。タキシードの人間がドレスアップして非日常を楽しみにきている人たちに紹介するカップルに素朴さはあまり必要ない。それは逆に不自然なのかもしれない。 こんなことをいうと横柄な考え方だと反感をかいそうだが、本当のことだと思う。
■さて結論は…いろいろ考えてみると、本当によい相性なんてないように思えてくる。 レストランに勤めているものにとって一番大切なはずの料理とワインの相性。いや、レストランだからこそ、最高の相性を求めるのは本当に困難なのである。 予算や体調などお客様の事情や条件、ストックやコンセプトなど店側の事情。お互いを両立させながらワインを紹介していく。至難の業であり、これが上手くいくのは年にほんの数回。でそのわずかな機会にめぐりあえた(はずの)お客様。本人はなんとも思っていなかったりして。 久しぶりのコラムなのに、ネガティヴなことばかりに書いてしまったけど、決して排他的になっているわけでもない。いろいろ難しく考えるより、物事はうまくいっているものだとわかってる。答えをあきらめてはいない。 リシャール・ジョフロワさんはその答えに導く大きなヒントをくれた。 パート2につづく。 |

