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セミナー

 

■バッカリーニさん

※ジョゼッペ・バッカリーニ:イタリアソムリエ協会会長であり、国際ソムリエ連盟会長でもある。そしてさらに1980年世界最優秀ソムリエと、そうそうたるタイトルをもつ世界的ソムリエの第一人者。

初めて見たのは、田崎さんが優勝した世界コンクールのビデオの中。ヨーロッパ以外からの世界最優秀ソムリエの誕生を満面の笑顔で祝福していた。そして、翌ウィーン大会では会長になられた。世界のソムリエをまとめるいわばゴッドファーザーである。

僕の時もそうだった。カナダ大会、ファイナリスト発表の朝、緊張の僕に、

「君はいつも笑顔でいいね。その笑顔にいいことがやってくるからね」

と声を掛けてくれた。そして、バッカリーニさんはファイナリストとして一番初めに僕のエントリーナンバーを力強く読み上げてくれた。

今年2月。

そのバッカリーニさんによるセミナーが開催された。テーマは「世界の最新情報」。国際ソムリエ連盟会長ならではのスケールの大きなテーマ。僕ならできないな。どんなことを話すのだろう。それにテイスティングもない。期待と「もしかしたら……」を抱きつつセミナーに出席した。

そして、その「もしかしたら」は的中した。2時間のそのセミナーはイタリアソムリエ協会の概要と活動についてと各州のDOCGや主要なDOCとぶどう品種の朗読だった。

これはがっかりでも非難でもない。

こんなスケールの大きなテーマを何百人という人にきっちりセミナーをできる人がいるとしたら(いくらゴッドファーザーであろうと)、同じくセミナーをする者にとってこんなショックなことはないのだから。

「セミナーって、難しい」。そう感じた。

 

■初めてのセミナー(1997年)

僕はとっても幸運だった。あまり上手くできないはずの初めてのセミナーに、田崎さんという強力なナヴィゲーターがいたから。沖縄という異文化の土地で、300人という難しい舞台であっても、何の不安も戸惑いもなく、セミナーを行なうことができたのである。セミナー後にはサインなんかも求められちゃったりして。

「以外と簡単だな」。そう思った。

東京に帰ると、すぐにセミナーの依頼がきた。沖縄と同じテーマで、やはり田崎さんと一緒に。あと、今回は中本さん*も加わった。ちなみにテーマは「ソムリエの役割」。そのセミナーも大盛況のまま無事終了。

「もう掴んだかな」。そう実感した。

※中本聡文さん:レストランロォジエ、シェフソムリエ。1996年S0PEXAコンクール優勝。自由が丘ワインスクールの人気講師でもある。深く、幅広い知識をもつ職人肌ソムリエとして多くのファンをもつ。

 

■初めての質問

初めての質問 続いて自由が丘ワインスクールのクラスが始まった。テーマ、ワインなどはすべて自分で決めていいことになっていたので、世界戦を控えていた僕はいろんなワインをテイスティングできるという自分本位な考えから、「世界のワイン」をテーマにした。そのテーマはすでに山本さん*が希望していたそうだが、「石田君に頑張って欲しいから」と、譲ってくれた。

参加者はたったの6名。20−30名はと思っていた僕にとっては結構ショックだった。

なにせ1回目、2回目は300名以上集まっていたのだから。

クラスは自分がそれまで体験したセミナーをモデルに行なった。ワインは6アイテム。テイスティングコメントを生徒さんにコメントしてもらって、指摘をいれて、そして解説。勉強真っ最中だっただけに快調に覚えたての知識を放っていた。フランス語のテイスティング用語も連発しては、「日本語より、便利だ」と説いている僕に、

「それは先生が世界コンクールにでるからではないですか?」

僕はいまだにこの質問の答えが出てこない。

※ 山本諭さん:ミクニ丸の内支配人。1997年ポメリースカラシップ優勝。田崎真也さんの愛弟子であり、イタリアワインのオーソリティーとして広く知られる。温厚な性格をもつ“癒し系ソムリエ”。

 

■背伸びと言い訳

世界のワインコースを平行して認定試験の対策講座も担当した。

JSA発行の教本などとっくに卒業した気になっていたので、この本に載っていないもっと内容のある話をするぞと意気込んでいた。ジャンシス・ロビンソンの本を流し読みしては使えるネタを披露するのだが、感心を深める生徒さんたちの顔とは裏腹にその情報の信憑性には自信をもてないでいた。

実際にあとで読み返してみると、僕の説明とは違っていたり、その情報がすでに更新されていたりということが度々あった。確実なこと、解かっていることだけを話せばいいのに、「人に感心されたい。日本最優秀ソムリエの威厳を」という背伸びの姿勢が肩に力を入れさせていた。

生徒さんからの質問に対してもそうだ。ソムリエって、クイックレスポンスが得意というか、とっさに上手い言い訳がでてしまう性分みたいなものがあって(僕の場合、言い訳と理屈が多いのは小さい頃からだけど)、よくわからないが素直に言えず、回答らしい言い逃れをいつもしていた。

 

■ジレンマ

世界のワインコースも2年目を迎えていた。人数も少し増えた。プロもいれば、一般の人たちもいた(会社勤め、保育士さんなども)。セミナーの内容は相変わらずプロ的なテイスティングテクニックや知識を深めていくというものだった。みんな熱心で一生懸命ついてきてくれた。

「この人たちがテイスティングコメントを人前ですることなんてないんだよな。あと、発酵による香りはどうとかを覚えてみんなはどうするんだろう」

と、あるときふと思った。かといって、プロの参加者もいるわけだし、急に内容を易しくするわけにもいかない。そんな迷いの中、クラスを進めるようになっていた。

 

■田崎真也ワインサロン(2000年)

ひさしぶりにコースを受けもつことになったワインサロンはすっかり知らない顔ばかりだった。クラスは30名、ほとんどが一般の人でスクールの定番メンバーのようだ。テーマはブルゴーニュ。テーマ自体は僕にとって、それほど難しいものではなかったので参加者に

「コメントを求めるのやめよう。自分がしゃべるだけでなんとかなるだろう」

と一般向け、易しいけど深い内容のあるセミナーに初めて挑戦することにした。

まず初回。笑いもたくさんとれたし、上手くいったと思う。しかし、2回目で自分の浅はかさに気付く。まったく間が持たないのである。

テイスティングは5アイテム。3アイテム目に移ろうとしたその時に時計をみると、まだ1時間しか経っていない。

今までのセミナーはつねにテイスティングを受講者に求めてきたので、時間があっという間に過ぎていた。話すネタを今まで以上にたくさん用意しておかないと持たない。

「今日もあまり上手くいかなかったな」と思うようになった。

 

■デュプスさん

※セルジュ・デュプス:アルザス、オーベルジュ・ドゥ・リル(ミシュラン三ツ星)のシェフソムリエ。1989年世界最優秀ソムリエ。現在は世界ソムリエコンクールの審査委員の重要な役割を担うリーダー的存在。

ソムリエ協会主催のデュプスさんによるブラッシュアップセミナーは2日間にわたるものだった。その長い長い時間はちゃんとプログラミングされていて、ずっと座っているという辛さを感じないで済んだ。そして内容はもちろんだが僕にとって目からウロコだったのは、デュプスさんのセミナーの進め方とそのしっかりとした準備にあった。

話す内容に沿って順序よく配られるプリント、1,2,3,ときれいに流れていくストーリーのようなセミナー。まるで演出家でもついているのか想わせるくらいだった。

「これこそ、プロの仕事だ」。そう思い知らされた。

 

■準備と引出し

ソムリエって、たくさん引出しを持っていて、そこには知識や笑いをとれるネタが結構詰まっている。だから2時間のセミナーも参加者のコメントを組み合わせれば難なくこなしてしまえる。つまり、このテーマだったら、この引出しで、こんな質問にはあの引出しを開けばそれで済ませることができる。

でも、それでは自分のレベルアップにはつながらない。よりよい内容の、自分にもプラスになるセミナーにするにはきちんとした準備が必要となる。たとえそれが何度も経験のあるテーマであっても。

ソムリエはお客様に合わせて、同じワインでも表現やサービス方法を自由自在に変えることができるサービスのプロ。そうであれば、セミナーも同じようにしてみたい。

テーマは何か、そのテーマでどんなことを話せるか。

聞き手はどんな人たちで、何人いるのか。

どんな準備が必要なのか。

時間配分はどのようにすればいいか。

そんなことを大切にしようと、いつも思っているのだけどなかなか上手くいかない。

そして、昨日もたいして内容のないセミナーをしてしまった。

セミナーって難しい。

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