ワインショップ、イーエックス[eX-WINE]は、ブショネ(2)の「通信販売」と「情報発信」をするサイトです。

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ブショネ Part2

 

■ブショネ Part2

ブショネは不慮に、そして頻繁におこるワインのアクシデント。そのワインはどんなにワインに興味がなくとも美味しいとは感じないので(僕の奥さんでさえ、言い当てたことがある。もちろん彼女は興味もなければ、知識もない)、出すべきではない。しかし、その判断はいつも簡単ではない。

お客様のため? ワインのため? 店のため? それとも自分のプライドの問題?

そんな葛藤のなかのソムリエの毎日。

 

■―1997年春。パリにて

一ヶ月のフランス研修旅行の最後はパリのワイン・レストラン“ビストロ・デュ・ソムリエ”でのスタジエ(見習)だった。そこは1992年世界最高ソムリエのフィリプ・フォールブラックさんがオーナーとして指揮をとる毎日が満席の人気店である。お客様はパリ中どころか世界中から彼のセレクトやサービスを味わうためにやってくるワインファンばかりである。日本人のワイン著書も店内でみつけることができる。

あるライチタイム。

入り口近くに座った男性2名はいかにもワインを一口飲むごとに10回はグラスを回しそうなワイン通という面持ち(ちなみに僕の経験からだけど、アメリカの方はよく回す)。

メドックのワインをサービスしようとしたところ、少し気になる香り。どちらかというと酸化による香りで個性だと判断してグラスに注いだ。

その男性は香りをかぐと、

「これ、チェックした?」と不審そうな顔をして言った。

「はい」と答えると、

「OK」と飲み始めた。

しばらくしてフォールブラックさんが店に到着すると、すぐにその男性は話し掛けて、その不審なワインの正否を求めていた。フォールブラックさんはテイスティングの後、別のスタッフを呼び止め、そのボトルを下げさせた。

そのスタッフは僕に怒ったように、

「これ、テイスティングしたのか! ブショネだ!!」

「……」

そのスタッフは急いで新しいボトルを開けて、改めてそのお客様にサービスをした。

バックスペースで新たに開いたボトルをテイスティングしながら、「両方、同じ香りがする」と首をかしげていると、さっきのスタッフが僕のグラスをとりあげて香りをかぐと、

「ほら、ブショネじゃないか」

と僕に諭した。

そのお客様は満足して帰られた。

アジアの若僧よりテイスティング能力が高く、世界一ソムリエと意見が一致したのである。誰だって嬉しいだろう。

 

■ソーテルヌとキューブアイス

「あまり飲めないので、グラス・ワインで結構です」

トゥール・ダルジャンでも、よくあるリクエストである。ワイン好きの皆さんには信じられないかもしれないが、やはり欧米人とくらべアルコールにあまり強くない日本人にとって、それは決してめずらしいことではない(彼ら欧米の人たちは、たとえとても飲んだとしても終電の泥酔者のようにはならない)。

「甘口のソーテルヌでしたらございますが」 

以前よく聞かれたやりとりだった。

甘いほうが飲みやすいだろうと、シャトー・ギロー1985をグラスで頼んだお客様は、あまり冷えていない*、その濃厚なねっとり感にビックリすることになる。

「氷をもらえますか……」

当時まだ白い前掛けだった僕はそのリクエストを受けた。そして、それを黒い前掛けの上司に伝えると、

「出してもいいけど、お前が氷を入れてはダメだ。クーラーごとテーブルに置いてくればいい。ソーテルヌのようなワインを我々が台無しにしてはいけない」

ワインを心から愛するソムリエの言葉。素晴らしい職人魂。

でも、すこし違う気がした。

 

■ソムリエとワインプロ

生産者、クルティエ(仲介)、ネゴシアン、インポーター、ジャーナリスト、コンサルタント、ワインライター、コレクター、愛好家など、あらゆるプロフェッショナルとソムリエの大きな違いは、ワインがソムリエにとっていつも一番ではないというところにある。

もちろん、ソムリエ・コンクールはワインの問題やデキャンタージュの審査ばかりだし、ダイニングでの仕事の80%以上はワインに触れている。ソムリエといえばワインの知識の宝庫のようなイメージは常についてまわるもので(近頃の若いソムリエは勉強が足りない、と同時に頭でっかちが多いとか言われているが、どっち?)。

我々の主たる仕事はワイン文化の伝播でも啓蒙でもない。レストランのダイニングルームでのサービスである。

お客様に楽しい時間を過ごしていただく。そしてまた来店していただく。

そういった繰り返しを続け、売上をあげていく。これが一番の目的である。

お客様からのリクエストには、それが可能でも無理でも

「はい。お伺いいたします」

という姿勢で反応するべきなのである。

「少々、お待ちください」

は使用頻度No.1の接客用語だが、それを

「はい、ただ今」

に変えるということである。

どんなに素晴らしいワインや稀少なアイテムを網羅したリストがあっても、それを飲んでくれるお客様がいないのであれば、我々の仕事になんの意味もないのである。

 

■サービス精神とプロ意識

じゃあ、お客様が満足であればなんでもありなのかというと、そうでもない。難しいところだ。

ソムリエの重要な役割はそのワインがもつ品質を最高のレベルでお客様に楽しんでいただくことである(ソムリエはワインの品質をあげることはできない。残念ながら)。

たとえば、シャトー・ラフィットは、造り手も納得するような状態でサービスされるべきだし、甘くて飲みやすいワインを希望される方のためのアイテムも(そんな方が少なからずいるのであれば)用意しておいて、ソーテルヌに氷なんか入れないで済むようにすればいい。

 

■フォワグラとムスカデ

お料理はフォワグラに、トリュフにと豪華にいきたいがワインは一番安いもので結構ですなんてオーダーも決してめずらしいことではない。

「お客様がそういっているのだから」

とムスカデやアリゴテを出せばいいのだろうか。

 

■交換と好感

お客様が気に入らないワイン

これがもっとも難しい。

それを無償で交換すれば確かにお客様から信頼を得ることができる。だからといってその度にワインを捨ててしまうわけにはいかない。

このワインは良い状態にあると判断したら、そんなにホイホイ意見を曲げてはいけないし。

可能であれば、お客様の声に耳を傾けて、何を欲しているのかをしっかり理解しなくはいけない(時にはただ文句をつけたくて言っている場合もあるのだから)。

そのうえで、取り替えるか(無償で)否かを判断すればいいのである。時には自分の主張もする必要があるということである。

参考書に正解は書いていないし、デスクや舞台の上でもそんなシチュエーションはありえない。しかし、それが毎日起こりうるのがソムリエの仕事場である。

つまり、用意周到だなんてほとんどないわけなので、与えられた場面の中でお客様と店側の満足を最大限(ワインの品質とともに)に実現させようとする気持ちをいつも持っていることが大切だと思う。

ソムリエはワインを造れるわけでも、料理を創るわけでもない(創れちゃうすごい方もいらっしゃるが)。毎日ダイニングで働いていれば、ワインでテーブルクロスにシミをつけることもあれば、コルクを折ってしまう事だってある。

でも、ワインをもっとも良い状態でサービスできるのは(無数の、時には初対面の、様々な方々に)、ソムリエである。お客様をレストランでたくさん持っているのもソムリエである。

そんな謙虚さとプライドのバランスをとりながら進んでいきたい。

ワインが主役にもなれば、わき役にもなれないこともあるレストラン。

今日も出勤です。

さあ、ダイニングへ。

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