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第12回 NMのイメージがガラリと変わったシャンパーニュ紀行
■初体験、シャンパーニュ地方での畑巡り先月(2002年2月末)、ボルドー・ブルゴーニュ・シャンパーニュと、フランスの3大生産地を2週間かけてまわってきました。 今回ははじめて、シャンパーニュの畑をまわって見てきました。シャンパーニュに行くとシャンパーニュ・ハウスを見て回るのがいつもの旅でしたので、とても新鮮でした。 一般には「祝杯の酒」とされるシャンパーニュですが、我が家では「勝利の酒」を意味します。
「祝杯」、「勝利」といったおめでたいイメージのつきまとうシャンパーニュが生まれる畑を、実際に自分の足で歩いてみたいという気持ちもありました。 そしてやっとその希望が叶った旅だったのです。
■シャンパーニュを形成する3つの地形
そこで今回のシャンパーニュでは 「テロワールの違い」
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「ルネ・ジョフロワ」 |
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「ヴーヴ・クリコ」 |
大手のシャンパーニュ・メーカー、ヴーヴ・クリコ社と、ブルゴーニュの小さなドメーヌと同じような小さい家族経営の生産者、ルネ・ジョフロワにアポイントを取ることができました。
さて、アポイントは取れた。それじゃあ、と、訪問する前に「少しだけでも勉強をしておこうと、ワインの文献にある「シャンパーニュ」というページをかたっぱしから開きました。
シャンパーニュには3つの地形があります。
ランスとエペルネをわける丘をぐるりと取り囲む地域。南、東、北東を向く畑があり、南向きのエリアにはシャンパーニュ随一のピノ・ノワールを産出するブジー村とアンボネー村があります。ブジー村とアンボネー村、同じ南向きで隣同士の村。どちらもピノ・ノワール栽培で有名ですが、粘土質表土の厚さの違いが味わいに大きな差をつくります。
ブジー村ではぶどうの葉をエサにカタツムリの養殖も盛んに行われているようです。
今回訪問するルネ・ジョフロワがあるのがここ、ヴァレ・ド・ラ・マルヌです。マルヌ川に沿って東西に伸びるエリア。
マルヌ川からの霧の発生によっておこる湿度、川の反射光によって温暖な気候となり、シャンパーニュにある324村の中で一番最初に収穫がはじまるキュミエール村もここにあります。一方、谷間に冷気が落ちこみ、川が運んだ粘土質による冷たい地表温度が霜を呼ぶことも多く、霜に強いピノ・ムニエ種が栽培されるようになりました。
斜面中腹以上の南向きの区画は霜の被害を受けず、温暖な気候を享受でき、ピノ・ノワール種の栽培が行われます。実はここでつくるピノ・ノワールはすばらしいシャンパーニュになります。1級であっても、特級に劣らないシャンパーニュ。数多くの大手ハウスがここに畑を所有しています。
東向きの斜面で、グラン・クリュの村で唯一栽培が許されているのがシャルドネ。早い時間から朝日を浴びられるので、病害や霜の被害が少なく、繊細なシャルドネの栽培に向いています。
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「チョーク層が10m以上もあるクレイエールの中」 |
ここには有名なサロン、ジャック・セロスなどがあり、あのクリュッグの「クロ・デ・メニル」のシングルヴィンヤードもあります。世界一チョーク質土壌の密度が高い地域で、シャンパーニュ最高のブラン・ド・ブランを産出します。
RN:レコルタン・マニピュラン
NM:ネゴシアン・マニピュラン
シャンパーニュのラベルに書いてあるこういったローマ字2文字を見て、「なんだろう」と思った方って、どれぐらいいるんでしょうか。実はラベルのはじにちいさーく表記されているんです。
これは勉強してラベルに表記されていることを知り、「どこかな?」と意識的に見てみないとほとんど気がつきません。
自社畑を所有し、自家ぶどうを用いてワイン(シャンパーニュ)を造り、販売を行う小規模生産者。
最近話題になっている「ドメーヌ・シャンパーニュ」もこれにあたります。今回訪問したルネ・ジョフロワもここに入ります。
自社畑も持ちますが、基本的に他の栽培家から購入したぶどうを用いて自社ブランドの名前で醸造、販売を行う会社を言います。ヴーヴ・クリコや、ドン・ペリニヨンで有名なモエ・エ・シャンドン、ポメリーなどが大手としてあげられます。
訪問した私たちを迎えて下さったのは、ジャン・バティスト・ジョフロワさん。彼が言うには「レコルタン・マニピュランは畑での作業が命」とのこと。
「ネゴシアン・マニピュランと違い、自分たちのぶどうの栽培に失敗した場合、他からぶどうを買い入れるわけではないから、当然畑での作業に最も力が入る」
とにかく畑での作業に最も手をかけ、15年前からオーガニックも取り入れています。完全にオーガニックを謳わないのは、ぶどうの状態を見て、場合によっては農薬を散布したりするからだそうです。
カノピー対策も万全で、日照と風通しを充分確保するための葉落としなど、果実に対してきめ細かいフォローをします。
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「ぶどうの圧搾をする器具です」 |
収穫時も熟したぶどうだけを摘み取るために、全ての区画の収穫を1週間おきに3回行うというこだわりよう。収穫時に使用するカゴも、「大きいと下のほうのぶどうが重みでつぶされてしまうから」と酸化を防ぐために小型のものを使います。
キュミエール村のテロワールの特徴は、「オーブンのような地形」。村全体が東南向きの斜面で、マルヌ川の反射光と湿度が寒い日の温度を和らげてくれる効果があります。抜群の日照量があるので、シャンパーニュ324村で一番早い収穫が行われるほど。
そうして造られるぶどうは素晴らしく凝縮した果実で、ルネ・ジョフロワではこの力強いぶどうのバランスを保つために、一切マロラクティック発酵を行わないそうです。
ロゼ・シャンパーニュのほとんど99%が赤ワインと白ワインのブレンドによって造られています。白ワインに10%弱の赤ワインを入れることできれいなピンク色のシャンパーニュにするそうです。
ところが、ルネ・ジョフロワではマセラシオン(浸漬)によってロゼ・シャンパーニュを造ります。100%のピノ・ノワールで造られるのも、シャンパーニュではかなり異例のこと。
テイスティングしてみると、赤い果実の味わいがたっぷりと感じられ、チェリーや苺のような味を楽しめます。
マセラシオンでロゼを造ろうとすると、手間も人件費もかかります。巨大なタンクで醸造を行うネゴシアンでは、「今がタイミングだ!」と思っても、なかなか思う色や味をつくることができません。小さなタンクでこそ、思い通りの色と味が出てくるのだそうです。
NMの代表はヴーヴ・クリコです。ここは200年の歴史を持つ老舗のネゴシアン・マニピュラント。
1772年に設立したこの会社は、1805年に1度、まだ本格的に始まっていない物語を終わらせようとする重大な出来事が起こりました。後継ぎであるフランソワ・クリコさんが若くして亡くなられてしまったのです。ワイン事業から手を引こうとした初代社長、フィリップ・クリコさんを引きとめたのがフランソワさんと結婚したニコル・バルブ・ポンサルダン。マダム・クリコと呼ばれる彼女です。
彼女にはルイ・ボーヌさんという信頼できるパートナーがいました。ルイさんにしっかりと補佐され、彼女は生涯をワイン造りにささげました。
18世紀初頭で女性の実業家であるということは用意なことではなかったと思います。ヨーロッパを経済不況に落とし込んだ数々のナポレオン戦争がある真っ只中、彼女は立ち向かってきました。それは並大抵のことではなかったのだろうと思います。
ヴーヴ・クリコのセラーに案内され、マダム・クリコがいかに先見の目を持っていたかということを見てきました。
現在ある17の100%クリュのうち、マダム・クリコさんは200年も前にすでに15の村に畑を確保していました。すでに彼女はテロワールの持つ価値をわかっていました。
彼女の書斎だという部屋にいくと、彼女が使っていたテーブルに穴があいています。
シャンパーニュには熟成期間中に生じる沈殿物を取り除く作業として「ルミアージュ」という工程があります。瓶を逆さまにして、毎日少しずつ動かしながら澱を瓶口に集中させる作業です。瓶を逆さまにする器具をピュピトルと言います。彼女は自分の机に穴をあけ、ピュピトルを生み出したのです。
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「現在のピュピトル」 |
200年も前にグラン・クリュを見抜く目を持っていたこと、自分で研究し、ピュピトルを発明するなど、彼女が持っていた天才的な直感と、厳しい時代の中会社を守り抜いてきた強さに感動しました。
ヴーヴ・クリコの少しオレンジ色に近いイエローって、誰もが1度は目にしていますよね。シャンパーニュのボトルで黄色いラベルを見ると、すぐにヴーヴ・クリコだと思うほど、ヴーヴ・クリコ=黄色のイメージがしっかりとついています。
実はこの色はブルターニュ産の卵の卵黄の色なんだそうです。マダム・クリコさんがお菓子を作っているときに「ヴーヴ・クリコの色はこれ!」と決めたのだとか。そんなひょんなことから決まったイメージカラーが、200年間で全世界に広がっている。それってちょっとすごいことだと思いませんか。
ハウス・スタイルやイメージを優先するネゴシアン・マニピュランは安定した品質を維持しています。
一方レコルタン・マニピュランにあたるドメーヌ・シャンパーニュはテロワールの個性を優先しますのでヴィンテージごとにも個性があり、それが楽しみのひとつにもなります。
豪華な気分に浸り、非常に高いクオリティと、「夢」を見ることができるネゴシアンのシャンパーニュ。
土の匂いが感じられ、ぶどうの栽培をしている生産者の姿や畑が浮かんでくるドメーヌのシャンパーニュ。
どちらにもそれぞれのよさがあり、共通しているのはいつの時代も「テロワールを大切にする」ということ。
新しい発見がたくさんあるとともに、シャンパーニュがより身近に感じられる旅行でした。
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ラタフィアも生産していました |
マダム・クリコさんと |
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日本の国旗でお出迎えいただきました |
パリを流れ、シャンパーニュまで続くマルヌ川 |

