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フロム・ザ・ヴィンヤード

第10回 初めてのオーストラリア大陸横断

初めてのオーストラリア大陸横断

 

2000年5月のことでした。「オーストラリア大陸を横断してみませんか?」と嬉しいお誘いをいただき、2週間かけてオーストラリア中のワイナリーを訪問してきました。

テイスティングしたワインのアイテム数は、なんと500を優に超えるというハードスケジュール。こんなに一気に集中して、しかも樽からの試飲がほとんどで、歯が真っ黒な写真ばかり、体力的にもとてもヘヴィでしたが、2度とないチャンスでしたのでしっかりとオーストラリアを堪能してきました。。

ご一緒して下さったのは自由ヶ丘ワインスクールで講師をお願いしている

ご一緒して下さった方々
佐藤陽一ソムリエ(マクシヴァン)
山本諭ソムリエ(ミクニ・マルノウチ)
中本聡文ソムリエ(ロオジェ)
麹谷宏先生(グラフィック・デザイナー)

といった方々。


案内にはオーストラリアのスペシャリスト、オーストラリアワイン事務局の木村靖さんが加わり、なんとも頼もしいメンバーでのツアーでした。

今回の予定は、南オーストラリアにあるバロッサ・ヴァレーから始まり、西にあるマーガレット・リバーまで、訪問したワイナリーの数20ワイナリー。日本は春も終わるころで、オーストラリアは反対の秋の収穫時期でした。

なかなか見ることのできない収穫場面収穫時期といっても、もうすでに秋の終わり近く。訪問する先々では、遅摘みの収穫だったり、貴腐ぶどうの収穫だったり、なかなか見ることのできない収穫場面に出くわすチャンスが幾度かありました。


今回はオーストラリアにいくつも点在するワイン産地の中から、ヴィクトリア州にあるふたつの地域に注目してみることにしました。オーストラリアのテロワールを活かし、そこに相応しい品種を植えて素晴らしいワインを産出しているヤラ・ヴァレーのコールドストリーム・ヒルズと、ゴールバーン・ヴァレーのミッチェルトンです。

 

■ブルゴーニュ品種が活きるテロワールを持つヤラ・ヴァレー

ブルゴーニュ品種が活きるテロワールを持つヤラ・ヴァレーヴィクトリア州はオーストラリアでも南に位置しており、メルボルンから1時間ほど車で走るとヴィクトリア州に入ります。

まず、我々はヤラ・ヴァレーに向かいました。

ヤラ・ヴァレーは冷涼な地域で、ブルゴーニュ品種が活きるテロワールであると言われ、シャルドネ、ピノ・ノワールが多く植樹されて研究が重ねられています。


この地区にあるいくつかのワイナリーを訪問したのですが、最も印象に残っているのがコールドストリーム・ヒルズでした。ここで造られる赤ワインは「オーストラリアのロマネ・コンティ」と話題になっています。

このワイナリーの畑は標高600メートルに位置しており、気候的には朝晩の温度差がとても大きいのが特徴。そんな風土を活かして、高品質のワインが数多く生み出されています。

案内されたのは、半円形のすり鉢状になったところにある畑。紅葉の季節を迎え、ぶどうの木も見事な黄金色の葉をたくわえていました。

コールドストリーム・ヒルズは114、115というブルゴーニュのクローンが植えてあります。これはブルゴーニュから直接持ってきたものなんですが、育成が非常に難しく、大変苦労しているようでした。

 

■キャノピー・マネージメントで管理

キャノピー・マネージメントとは樹冠管理のことを言います。これは針金を使ってぶどうの枝を上に伸ばさせながら、日照を得る方法です。ヤラ・ヴァレーの冷涼な地域では日照がとても大切なために、この方法を採用するワイナリーが多いようです。

秋の時点で、すでに来年のための芽(翌年のぶどう)ができています。そのぶどうの芽たちに日照をあてることによって、来年収穫するぶどうの出来が決まってくるというわけですね。

 

■ジェームス・ハリデーさん

ジェームス・ハリデーさんコールドストリーム・ヒルズのオーナーはジェームス・ハリデーさん。オーストラリアで最も有名なワイン・ジャーナリストであり、もともとは弁護士をしていたそうです。

1970年に2人の友人とハンターヴァレーにぶどう畑を買い、週末だけワイン造りをしていたのがそもそものきっかけでした。その後、1985年に本格的にワインの生産を始め、コールドストリーム・ヒルズの設立にこぎつけました。現在はコンサルティング的なお仕事をなさっています。


彼はヨーロッパから持ってきたクローンを増殖してできたぶどうに加えて、ヤラ・ヴァレーの土地にあったぶどうを探して植樹しています。

 

■ローヌ品種に適しているテロワールをもつゴールバーン・ヴァレー

一方、ローヌ品種に適しているテロワールを持っているのがゴールバーン・ヴァレーです。

ゴールバーン・ヴァレー実はここには昼間に到着する予定でしたが、迷いに迷ってしまい、到着したころにはすでに日が暮れてしまっていました。その途中に、まるで映画のワンシーンのようなすばらしい夕焼けを見ることができましたが。


ワイナリーでは皆さん、今か今かと待っていてくださいました。「夕焼けがきれいでした」なんてとても申し訳なくて言えないほど親切に案内してくださいました(ミッチェルトンの皆さん、ごめんなさい)。

まず最初にヴィンテージのお話をしてくださいました「オーストラリアの1999年はぶどうの品質は非常に良かったが、収穫量は非常に少なかった。一方1998年はドリームヴィンテージで、理想に近い品質のぶどうを収穫することができた。量的にも満足の行く収穫ができた年だった」


と、まず最初にヴィンテージのお話をしてくださいました。当時の私は、オーストラリアというのはいつでも良年というイメージを持っていましたので、反省です。ヴィンテージも個性のひとつというのが彼らの考え方でした。

 

■130年のワイン造りの歴史を持つミッチェルトン

ゴールバーン・ヴァレーにある彼らのワイナリーは、130年にも及ぶ歴史を持っています。すぐ近くにゴールバーン川があり、その影響で特殊な環境をつくりあげています。

ミッチェルトンの畑が四角とすると、3辺が川で囲まれています。秋・冬場はこの川が夜の間に霧をつくり、霧に覆われることでリースリング種に貴腐菌が付着します。ミッチェルトンのリースリングには貴腐菌のついたぶどうも使用されるので、他にはないまろやかさや複雑さがあるとおっしゃっていました。

ミッチェルトンと言えばリースリングが有名ですが、実はここで栽培されているぶどうはローヌ品種が多く、マルサンヌ、ヴィオニエ、シラーを得意としています。

ミッチェルトンの一番の財産はドン・ルイスさんだと思います。ワイナリーが創立されてからずっとワイン造りに携わっており、畑の土地の特徴を知り尽くしています。彼がいる以上、ミッチェルトン・ワイナリーは安泰と言えるのではないでしょうか。

 

■こんなお話もうかがいました

膨大に広がるこの畑のぶどうの樹木1998年は非常に乾燥していたヴィンテージで、その上比較的温暖な気候だったために、貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)がほとんどつかなかったそうです。そこで菌が発生するように霧吹きで水を吹いていたら、貴腐菌が発生したとか。膨大に広がるこの畑のぶどうの樹木に霧吹きで水を吹きかけるなんて、気の遠くなるような作業です。そんな手間暇によって、このワイナリーの品質は保たれているんですね。


■ローヌ品種

既に高い評価のあるシラーズに加えて、白ではマルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ、赤ではムールヴェードル、グルナッシュなど
ローヌ品種
「15年から20年後にはもっとユニークで完成度の高いワインにしたい」

といって挑戦していました。

この地域ではマルサンヌが100年ほど前から栽培されていたそうです。ドン・ルイスさんもいろいろ試した結果、マルサンヌがこの土地にあっていること、そして健康的にぶどうが育つことがわかったとおっしゃっていました。


ゴールバーン・ヴァレーはヤラ・ヴァレーよりも暖かいので、当然糖度も高くなると同時にアルコール度数も高くなるので、ぶどうの熟成期間も長くなります。味自体の構成もしっかりしとした瓶熟成の長いワインが造られます。

ぶどうの果実味を残すために樽発酵後のオリを10ヶ月、ワインと一緒に貯蔵し、タンクで発酵させたものとブレンドして味のバランスをとります。

★ ミッチェルトンを訪れたときはちょうど貴腐のリースリングの醸造過程の途中で、みんな神経がぴりぴりしているようでした。申し訳ないときに訪問してしまいました。

テイスティングの途中もドン・ルイスさんは気になるらしく、何度も仕事場に戻り、落ち着かない様子でした。

 

■対照的な二つのワイナリーと二人の醸造家

コールドストリーム・ヒルズのジェームス・ハリデーさんがワインジャーナリスト的なお仕事もしているのに対し、ドン・ルイスは毎日畑に行くことが自分の仕事であり、ワイン造りの90%が畑仕事と言います。ヴィクトリアではこんな対照的な二人に同時に接することができました。ワインにそのお二人の個性を感じることができます。

そしてテロワール。

冷涼な気候のヤラ・ヴァレーにあるコールドストリーム・ヒルズではブルゴーニュ品種のピノ・ノワールとシャルドネが、温暖な気候のゴールバーン・ヴァレーではローヌ品種が適しています。

世界中どこの国にもテロワールがあり、その土地に適したぶどうを栽培してよいワインが造られていることを実感しました。

皆さんも、どこかワイン産地を訪れるチャンスがあったらぜひテロワールを体験してきてください。「どうしてこのワインがこういう味わいになるのか」ということを、きっと肌で感じることができることと思います。

このときのオーストラリア横断は、私に素敵なお二人の男性と、素晴らしいテロワールのオーストラリアが持つ可能性を教えてくれた思い出深い旅行となりました。

 

■後日談ですが……

ドン・ルイスさんは実は飛行機が大の苦手。世界中から「ぜひ自分の国へ来て欲しい」という依頼があるそうですが、かたくなに断りつづけているそうです。「とにかく恐いからいやだ」と言っているとか。

そのドン・ルイスさんもついに諦めたのか、翌年、日本にいらっしゃって再会するチャンスがありました。オーストラリアで見た神経質のドン・ルイスは微塵のかけらも見えない、とても陽気で気さくな男性でした。

日本のデパートの食品売り場に行って霜降り松阪牛に感激したとしきりに言っていました(笑)。夕食をご一緒したそのときも偶然に松阪牛がメニューにあり、はじめての霜降り牛肉を食べたとはしゃいでいましたよ。

あんな偉大なワインを生み出す「伝説的醸造家」と言われる彼が、子供のように見えた、ちょっぴり嬉しいディナーでした。

 

■このときの私のアルバムから

世界一古いシラーズのぶどうの木 世界一古いシラーズのぶどうの木

世界一古いシラーズのぶどうの木

畑には鳥よけのネットがかけられていました 畑には鳥よけのネットがかけられていました

畑には鳥よけのネットがかけられていました

ミッチェルトンの貯蔵庫

ミッチェルトンの貯蔵庫

マーガレット・リヴァーの海岸 ヴィクトリアの海岸

マーガレット・リヴァーの海岸

ヴィクトリアの海岸

途中でお買物も。佐藤ソムリエと おちゃめな麹谷さん

途中でお買物も。佐藤ソムリエと

ミッチェルトン・ワイナリーでの1枚。おちゃめな麹谷さん

 

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