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第9回 地球の裏側、チリへ!
■地球の裏側、チリへ!昨年の春、チリへのお誘いを受けました。 最初は「ほんとですか?」と思わず口をついて出てしまいました。だってまさか自分の一生の中で地球の裏側、世界地図でもほとんど気にかけることのないチリという国に行くなんて想像もしていませんでしたから。 チリワインの品質があがり、日本でもチリ人気が高まったことからお誘いをいただいたのだと思います。今では世界中で良いワインができていますから、旅とワインの大好きな私には本当にありがたいお誘いです。 私の最初の印象。 ・南米って危険? お恥ずかしながら、そんな程度でした。 「電話が通じませんからそのつもりで」 とまず最初にいわれました。 10日間も電話が通じないというのは私も仕事があるので、ちょっと困ってしまいます。そこでインターネットでチリに通じる携帯電話を探してみました。やっとのことで、一機種だけチリでも通じるものを見つけました。 「この携帯電話、チリに持っていく人ははじめてなんです。この前南米にNHKの方が持っていらっしゃいましたが、そこでは通じましたので」 使い方をしっかりと教わり、パソコンと携帯電話を持って、いざ、チリへ。それにしてもいったいチリってどんな国なんでしょう。正直、不安な気持ちをたくさん抱えながらの出発でした。
■ダラスでトランジェット、そして首都サンチアゴへまずダラス空港まで11時間半の飛行。ダラスでの待ち時間が5時間。その先、ダラスからサンチアゴまで約10時間。見事に合計29時間(!)の旅でした。 サンチアゴに着いたのは朝の7時半。機内でぐっすり寝たおかげで気分は爽快です。出発した日本は春でしたが、南半球のチリでは秋です。春と秋の違いでしたから、気温の差もさほど問題にはなりませんでした。
■チリの風景とインディオ・ハウス最初の予定は、近年マイポに並んでチリ最高のワイン産地と名高いアコンカグア・ヴァレー。アンデス山脈から昇る美しい朝日を眺めながら、アルゼンチンのメンドーサに通じているという高速道路を進みます。 サンチアゴを離れると、平地部にはキウイフルーツ、アボカドの畑などが拡がります。アンデスの裾野にあたる山々は、夏の乾燥期のあとのためかほとんど植物も木もない地肌、時には険しい岩肌さえ露わになっています。あるのはサボテンばかり。 そんな景色をみながら進んでいくと、小さな小屋のような家がぽつりぽつりと登場します。 「あれはインディオの人たちです」という説明を受けました。 6畳くらいの広さで、本当に自分たちで建てたんだろうと思わせる建て方です。アルゼンチン側からチリ側の方に移動してきているんだそうです。そんな西部劇みたいな風景が続き、目的地のアコンカグアに到着しました。
■ぶどう栽培の天国私がチリに行ったときは過ごしやすかったのですが、この地域の夏の日中は30度以上と高い気温になるそうです。 なぜそんなに暑いところがワイン造りに適しているかというと、大西洋の冷たい海流のおかげです。大西洋からアコンカグア川沿いに流れ込む冷たい風の影響で毎朝霧が発生し、それがぶどうを冷やしてくれます。 このことが急激な果実の成熟を押さえ、ゆっくりとした成熟期間をもたらしてくれています。果実が成熟しつつも、しっかりとした酸も残すエレガントなワインを造ってくれるのです。 この気候のパターンはカリフォルニアの最高のワインエリアである「ナパ」や「ソノマ」にそっくりだと思います。 夏の少ない雨、豊かな日照、冷たい海流による朝の霧、海岸山脈と川の織り成すミクロクリマ……。 チリがワイン造りに向いている理由は、カリフォルニアに似た地形パターンだけではありません。それは「果物の楽園」といわれる環境にあります。 まず病害菌がほとんど発生しません。 西に冷たい大西洋、北に砂漠、南に南極、東にアンデス山脈と、四方を厳しい自然でブロックされており、病原菌も侵入してこれないのだそうです。おかげでチリのぶどう園はフィロキセラにほとんど侵されることはありません。 そして美しい水が豊富にあります。
次に土壌ですが、まさに研究をしながら、という印象でした。チリの優れたワイナリーでは、まず土壌の調査から始めています。 まずどこの土地にどのぶどう品種を植えると良いかを調べるために、深く土を掘り起こして調査をはじめます。粘土が多いのか、火山性の土壌なのか、砂質が多いのか……。
まず最初に連れていっていただいたところは、一滴の水もないカラカラの河原でした。そこでは、2メートルくらい掘り起こしての地質検査を行われていました。当然小石、砂、粘土が多い土壌のようで、年によって移り変わる川の蛇行によって、ちょっと離れた場所でも土壌の構成が違うのです。 そして掘り起こしてみて土壌がワイン栽培に適していれば、そこに雪解け水を灌漑用の水としてひっぱってきてそこにぶどうを植えます。 見学した河原のちょっと離れたところには、すでにぶどうが植えられてしました。「オーパス・スリー(第三楽章)」ともいわれるスーパープレミアムワイン「セーニャ」用のぶどうが栽培されていますとのこと。将来が楽しみです。 土壌を調べてそこに適した品種を植える。この考え方は、まさにカリフォルニアと同じ科学的なアプローチ。いいワインができるのも頷けるところです。この畑では、ナパにあるオーパス・ワンの畑と同じような樹間・木の高さで仕立てられてたカベルネ・ソーヴィニヨンがありました。
■チリの代表品種カルメネール。ちょうどカルメネールの収穫に遭遇
今回の訪問時は、カベルネ・ソーヴィニヨンとカルメネールの収穫の時期でした。 カリフォルニアのジンファンデル種、アルゼンチンのマルベック種、スイスのシャスラー種のように、チリという国を代表する品種であるカルメネールの話は聞いていましたが、実際に見るのは初めてです。 実はフィロキセラ前のボルドーではカルメネールは主要品種のひとつだったのですが、良い年じゃないと熟してくれないために、フィロキセラ後には誰も植樹しなかったそうなのです。 フィロキセラ前のボルドーから持ち込まれたチリのカルメネールは、ボルドーがその使用をやめた今でも病原菌や害虫に侵されることなく栽培され続けてきたのです。 もしかしたら、1800年代前半のボルドーワインの味わいは、今のチリワインに似ていたのかも知れませんね。
■カルメネールの悲劇
ここで悲劇が起ります。 「チリのカベルネは美味しいけれど、メルローは青みがあるし苦いのでイマイチ」といったよくない評判が広まりました。実はこの混植によって本来の味わいが誤解されているのです。 実はメルロー種は赤ぶどうの中でも熟すのが早い、いわゆる早熟品種なのですが、一方カルメネールというのは、カベルネ・ソーヴィニヨン種よりも収穫が遅いほどの晩熟品種なんです。この2つの品種の収穫時期の差は最大で1ヶ月近くなるのです。 そしてカルメネールはきっちりと成熟しないと青み、エグ味、苦み、雑味が多くなる品種で、しっかりと熟させれば、酸は少な目ですが豊かなボディやコク、果実味を持つという品種なのです。チリのような太陽の恵みの多い国では、ちゃんと収穫を待ってあげれば素晴らしいワインになってくれるんです。 かつては、この2品種が機械などで一気に収穫されてしまっていたから、チリのメルローは青い、苦い、という評判が立ってしまったのだと思います。 最近のチリでは、このカルメネールを豊富な日照を持ち、秋口にあまり雨が降らないという特徴を生かしてチリの特徴的な品種としてアピールしていこうという流れになっています。畑も植え替えを進めて品種を分けて管理するようになってきました。 まだチリのカルメネールを試したことのない方、ぜひお勧めです。東洋のスパイスのようなエキゾチックな香があり、濃厚かつジューシーで、噛めるようなスーパーワインです。
■チリは大量生産の凡酒ではありません(念のため)実は、私は随分前に一本のぶどうの樹に30房くらいならせたチリのワイナリーの写真を見たことがあります。そこでチリのイメージが作られてしまいました。 ところが、実際に行ってみたチリは違いました。そこにはカリフォルニアによく似た素晴らしいテロワールがあり、土壌も研究され、収穫制限もしっかりとされてぶどうが栽培されていました。近代的で衛生的な最新鋭のワイン醸造設備も整っています。しかも収穫はほとんどといっていいほど手摘みです。 私は完全に考えを改めざるを得ませんでした。 皆さんもチリは大量生産凡酒産地だと思っていませんか?
■アコンカグア・ヴァレーのワイナリーを訪問しました
急斜面の畑があり、傾斜が最大45度くらいあります。そしてドリップ式の灌漑を行っている最新鋭の技術も取り入れたワイナリーでした。 チリの多くのワイナリーは栽培の手間のかからない平地でぶどうを造っていますが、優れたワイナリーは水はけや土壌の変化を考えてわざわざ斜面で栽培をしているということに驚きました。
■サボテンの実って食べたことありますか?エラスリスでは斜面の頂上まで登りましたが、さすが45度の傾斜、上っていくには強い心臓が必要でした。
ここの人たちはなんとも思っていないようでしたが、私はもしも転んでそこにささったら……と考えただけで背筋がぞっとしてしまいました。 そのサボテンにはちょうど卵くらいの大きさの実と赤い花がついていました。あとでそれを食べさせていただきましたが、種がすごく多かったんですが、ちょうどキウイフルーツのような味でとても美味でした。 チリにきて、ワイナリーにきて、まさかサボテンの実を食べるなんて……。
■セーニャの畑に行ってきました。トラクターにひっぱられた荷台に乗って牧歌的にスーパーワイン、セーニャの畑も見てきました……といってもまだぶどうが植えられているわけではなく、これからぶどうを植える準備をしていました。 面白いことに、ここは昔、バラ園とにんにく畑だったそうです。 一緒にチリに行ったソムリエさんたちは「きっとにんにくの香りとバラの香りのするぶどうができるんですよ!」などといって喜んでいましたが、あちらこちらに穴があいており、地質調査のあとが見受けられます。 ここは高い山々に囲まれています。 2001年のヴィンテージより収穫され、2002年3月にリリースされる予定と聞いていましたのできっと今ごろは瓶に詰められて熟成中ですね。 ところで、セーニャという名前の由来は、スペイン語で「サイン」、乗じて「特別の」「卓越した」という意味なんだそうです。
■チリのワイナリーを実際に見てみた感想素晴らしい醸造設備を備え、カベルネなどの世界品種への植え替えが終了、またチリの個性を表すカルメネールの分植もスタート。 チリワインの爆発的なブームは去ったといわれますが、私は樹齢もあがってくるこれからが注目なんだと思います。 本当のチリの実力、テロワールの実力が現われるのはこれからですから。 特に丁寧につくっている中小規模の造り手のワインは注目です。人件費が安いからカリフォルニアですぐに2万円、3万円となってしまいそうなクオリティのワインが、数千円で買えるという凄さがあります!
■ピスコサワーに挑戦!昔の有名な貿易港(パナマ運河ができるまではヨーロッパからアメリカ西海岸に向かう船はすべてチリ経由だったのご存知ですか?)であるバルパライソで、シーフードも楽しんでしまいました。 ここでレストランの方が「ピスコサワー、いかがですか?」と。
ピスコというお酒はチリの国民酒で、日本における焼酎のような存在。スーパーに行くとどこにも山積みされていて、だいたい一本500円くらいの価格で売られています。ピスコサワーとは焼酎をレモンサワーでわったような感覚の飲み物です。 ピスコサワーのレシピは、ピスコに生の卵白と炭酸、レモンをいれてシェークしてできあがりです。しかし、生卵のはいったものを口にするのはとても勇気がいります。実は日本を出るときにきつく「生ものを食べないように」というアドバイスをされていました。 「大丈夫? あたらない?」と思わず、みんなで顔を見合わせてしまいましたが、勇気をだしてみんなで注文することにしました。 すると2リットル入りのコーラのペットボトルに入れてシェークして出してくれるのです。日本では本当に考えられないですよね。 飲んでみると、これがまた、すごく美味しいんです! 「大丈夫?」なんて言っていたのは嘘のように何杯もおかわりしてしまいました。
■またもう一度チリに行きたい!旅の良さは、やはり人と食事と景色です。チリは全てが素晴らしかったです。
今はクリコやカサブランカの上質な白ワインもあるので、魚介類を楽しむにはもってこいですよね! 古い街並みもあれば、ちょっとエキサイティングなニュータウンもあり、景色もとても素敵なところです。そしてチリで、何より良いのが「人」でした。特にワイナリーはどこをまわっていても、若い人ばかりで、躍動感があり、楽しくなります。 かつてピノチェトの独裁政権だったチリが、その抑圧された時代を通り抜けて、ああいう情熱に溢れた目をもつ若者がでてきているんだと思いました。 すごく「応援したい国」です。 やっぱりワインはその国の人や文化を表すなぁ、と実感しました。 今回は雨が降ったために、アンデスを見ることができなかったので、またいつか美しくて人の気持ち良いチリを訪れて、最高峰のアコンカグア山を見たいなぁと思っています。
【私のアルバムから】チリはこんなところでした。
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