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第3回 ドメーヌ・A・エ・P・ド・ヴィレーヌ
■ドメーヌ・A・エ・P・ド・ヴィレーヌとブーズロン少し長く、ちょっとだけややこしいこのドメーヌの名前の種明かしは、Aはオーナーであるオーベール氏、Pはその奥さまであるパメラ夫人、お二人の名字がド・ヴィレーヌ。そこで「A・エ・P・ド・ヴィレーヌ(ヴィレーヌ・オーベールとパメラ)」なのです。 ドメーヌ・ド・ヴィレーヌのオーナーでもあると同時にドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)のオーナーでもあるオーベール夫妻は老後を過ごす永住の地を探し、たまたまアリゴテ種の畑がある家をブーズロン(ブルゴーニュでも南側にあるシャロネーズ地区の村)に見つけました。 ブーズロンはコート・シャロネーズ地区の中では最北端に位置し、すぐ隣にはリュリーのアペラシオンがあります。人里はなれた、中世から時間が止まってしまったかのような小さな小さな村でした。しかしその小さな村の土壌(アジロカリケールという泥灰土)はすばらしく、コート・ドールのように畑を丁寧に手入れし、収穫量を制限し、よく熟したぶどうを作るとアリゴテ種から驚くようなしっかりとした、それでいてフルーティなワインができるのです。
■朝モヤの中、ヴィレーヌに到着
その日、朝モヤがたちこめる中、ボーヌの城塞の脇にある宿泊先のホテルを出発しました。ボーヌから1時間ほど車で走るとシャロネーズ地区に入ります。その間に、シャルドネ種から偉大なワインを産出するムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェなどの村々を抜け、のどかな田園風景をながめているとドメーヌに到着しました。 出迎えてくれたのはパメラ夫人とヴィレーヌの醸造長、そしてとてもりりしいラブラドール・レトリバーです。
■パメラ夫人の魅力
まず第一印象はチャキチャキの江戸っ子という感じ。親分肌で面倒見のよさそうな人柄でした。 テイスティングの際、グラスに残ったワインをどうしようか迷っている私に、 「残っているワインはここに戻しなさい」 とデキャンタを渡してくれました。 「うちの主人はね、一滴のワインでも無駄にすると怒るの。一滴も捨ててはいけないと教えられたのよ!」 それがDRCのオーナーの教えなのです。そんなことにちょっと感激してしまいました。 ドメーヌでワインの説明をするパメラ夫人はまさに水を得た魚のよう。生き生きとしていて、同じ女性でも強く引き寄せられるような魅力を持っています。 その1年後に東京で再会するチャンスがあり、そこでもまた違った魅力を発見しました。きれいにお化粧をしているのですが、まるで修学旅行の女学生のように何を見ても興味津々で本当にチャーミングなんです。あとで伺ったのですが、ショッピングが大好きな彼女はそのあと京都に行き、買い物をいっぱいしたとか。その姿が目に浮かぶようです。
■あの有名なカクテル「キール」ブルゴーニュにおいて、白ぶどう品種としてはシャルドネ種があるために残念なことに劣性品種とされているアリゴテ種。典型的なアリゴテ種はフレーバーが長続きせず、シャープな酸味が強いため、丸みに欠けるとも言われています。ですが、出来のいい年にはぶどうの酸とのバランスを保ち成熟させることによってすばらしいワインになります。 アリゴテ種をどうにか世界中にアピールするために考えられたのがあの有名な「キール」です。1960年代にブルゴーニュ地方、ディジョン市の市長をしていたキャノン・フェリックス・キール氏がディジョンの名産物クレーム・ド・カシス(カシス・リキュール)とアリゴテ種から造られる酸の尖った辛口白ワインをミックスしてカクテルを発明しました。市の公式レセプションには必ずアペリティフとしてこのキールが供され、そのことによって今日では世界的に有名なカクテルとしてその地位を確立していますよね。
■オーベール・ド・ヴィレーヌ氏の偉大な仕事
彼はブーズロンをヴィンテージによって2パターンに造り分けています。出来のいい年にはブーズロンの個性を全面に出したブーズロンキャラクタータイプを造ります。もう一方は出来のあまりよくない年に造る、酸が多くてフレッシュなワインのアリゴテキャラクタータイプ。強引にどちらかに統一するよりも、そう造り分けることでそれぞれの良さが引き出されるのです。 実はそれまで、ブーズロンというAOC(法定原産地呼称)はありませんでした。オーベール氏がブーズロンでいい高品質のアリゴテを造り、ワインの品質向上がINAO(原産地呼称を管理する機関です)によって認められ、1979年についにブーズロンのAOCを獲得しました。それがブーズロンのテロワールの実力、ヴィレーヌ夫妻の情熱と挑戦でした。アペラシオン法までも変えてしまったことで、アリゴテとブーズロンの可能性を彼らは世界に示したのです。
■伝統と挑戦の共DRCは先祖代々過去から引き継がれたDRCの味わい、言うなれば「伝統」を守り通さなくてはならず、「公の人」オーベール氏としてのワイン造りを余儀なくされ、新しい挑戦はできません。その新しい挑戦をする場としてブーズロンを選び、楽しみのワイン造りをすることで「私人」オーベール氏とパメラ夫人、そしてその子供たちのようなワインがあります。 DRCの偉大さ、貴族的なイメージももちろん大切になさっていらっしゃいます。それでも奥さまのパメラ夫人と大好きなワイン造りを続けていくことも、彼のとても大切な夢なのではないでしょうか。 ヴィレーヌを訪問し、そのほのぼのとしたヴィレーヌ夫妻のお人柄と人生観を垣間見ることができたような気がして、より一層ヴィレーヌファンになってしまった私でした。
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