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第2回 古き良きブルゴーニュ
■憧れの地、デュジャックブルゴーニュワインの大のファンである私が、モレ・サン・ドニ村の世界的に高名なドメーヌ・デュジャックを訪問できるチャンスはひょんなところから始まりました。 2年前、私はボルドーで行われる「ヴィネクスポ」というワイン・フェアに参加するために、渡仏することになりました。「ヴィネクスポ」は2年に一度ボルドーで開催 されるワインの博覧会。世界中のワインの生産者が集まり、世界中のワインをテスティ ングをすることができるのです。 さて、渡仏するにあたり、一緒に行く仲間と「せっかくフランスに行くんだから、ブ ルゴーニュにいこう」ということになりました。その時に、「ブルゴーニュに行くん だったら、デュジャックに行きたい!」と思いっきりミーハーなことを言ってしまっ たのが、他でもない私です。
実は、私がデュジャックに行ってみたかったのにはそれなりの理由があります。 5年前、デュジャックのオーナーであるジャック・セイス氏と、銀座のホテル西洋 のフレンチレストランで、一緒にディナーをいただく機会がありました。ジャック・ セイス氏が自分のセラーからワインをセレクトし、世界ソムリエコンクールで優勝し た田崎真也氏が、そのワインにあわせてお料理を決めて下さるという素敵な趣向のディ ナーでした。 そこで、私が熱烈に気に入ってしまったのが、マグナムボトル(普通の瓶の2倍、つ まり1.5Lのサイズの大型瓶でワインの熟成に良いといわれます)にはいっていた 「モレ・サン・ドニ・ブラン 83年」。 その時のディナーでは、DRCのモンラッシェ、ルフレーヴのモンラッシェ、コン ト・ラフォンのモンラッシェと一緒にサービスされていました。その中で、ただのモ レ・サン・ドニ・ブランという村名ワインに過ぎないこのワインが、他と比べて一歩 も引かないほど素晴らしい味わいだったんです。 ジャック・セイス氏いわく
とのこと。 ただのモレ・サン・ドニ・ブランが、10年の熟成を経て、高名な生産者のモンラッ シェと遜色ないワインになってしまったんです。 そんな記憶があったので、ぜひともデュジャックを訪ねてみたいと常々思っていた のです。
■ ブルゴーニュでは「よそ者」だったけど。ジャック・セイス氏がモレ・サン・ドニ村にドメーヌを構えたのは、1968年。彼 は十数年で世界的名声を確立してしまったという人です。彼の持って生まれた運の強 さを感じます。 しかし、彼が成功したのは運だけではありません。 ブルゴーニュは訪れてみるとわかるとおり、世界的な名声に比べて実に小さな農村の 集落といった風情でよそ者が入り込むのは難しい世界だとされています。そんな中で 彼はブルゴーニュ中の多くの生産者との親交、情報交換を通じて自分のワインの技術 を高めていったのです。 ですから、私は彼のワインの名声はもちろん醸造栽培の才能にもよるけれども、彼の お人柄と情熱の賜物だと思うのです。 1968年に自分のドメーヌ、デュジャックを興す前の2年間、セイスさんはビスケッ ト会社を営む父の投資先でもあった、ヴォルネイ村のドメーヌ・プス・ドールでワイ ン造りを学びました。師事したのは、当時の高名な醸造家であるジェラール・ポテル さんです。 彼がワイン造りの指導を受けたのは、他にもドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティのオー ナーであったり、コントラフォンのオーナーであったり……。トップクラスの生産者 から学んで、しっかりとした技術を身につけていらっしゃいます。 息子さんのジェレミーさんも同様で、オーストラリアでも1、2位と造り手と言われ ている、バロッサヴァレーの「ヘンシケ」で修行をしてきています。 一方、彼はそうして得たワイン造りのノウハウを自分ひとりでしまいこむことなく、 当時の多くの若手の醸造家たちに伝え、いわば指導者的役割も果たしていったのです。 当時ジャック・セイスさんの指導を受けた若者には、プレモー村のドメーヌ・ダルロー で現在指揮をとり、同じく世界的な評価を受けるに至っているスメさんなどがいらっ しゃいます。 こういった活動はあまり多く語られる事はありませんが、しっかりとブルゴーニュの 社会に溶け込んで信用を築き上げた彼のお人柄と努力が、結果として高品質のワイン を生み出したと言えそうです。 私もワインを扱い始めて十数年。本当に色んな方に教えていただいてきました。今で は私もワインに情熱をもった若い方たちとお仕事をする機会がありますが、セイスさ んを見習って「今まで私が教えていただいたことを若い方たちに伝える努力をしなく てはならない」と、彼の姿勢に学んだのです。 ちなみに息子さんのジェレミーさん。 イギリスの大学でラグビーをやっていた背の高い精悍な顔つきのハンサムボーイなん です! 彼は大の親日家とのことで、日本語の勉強も少々して、かわいらしい日本語 をしゃべってくれます。今はお父さんと一緒にドメーヌで一生懸命ワイン造りの修行 をしているそうです。 偉大なお父さんであるジャックさんの跡をついで、きっと将来はスターになるんだなぁ と思いますが、一方彼は「大のポケモン好き」なんていう、まだあどけない可愛らし い一面ももっていて、とっても好感のもてる青年なんです。私も(またまたミーハー なんですが)すっかり大ファンになってしまいました。
■地下のワインセラーでのテイスティングジャック・セイス氏を訪ねると、まず地下にあるセラーに案内してくれました。そこ にはたくさんの新樽、そして驚くばかりのオールドヴィンテージのワイン。そして意 外なことに、真っ黒の綿のようなカビのついたそうそうたるカリフォルニアワインが 置かれていました。 ブルゴーニュの生産者のセラーはブルゴーニュワインばかりということが多いのです が、セイス氏のセラーにはまさに「世界中」という言葉がふさわしいラインアップで、 セイス氏のワインに対しての愛情と勉強熱心な姿勢がうかがえます。
さて、セラー見学の後は、お待ちかねのテイスティングです。
「うちでもインパクトの強いニューワールド系の樽香のついたものが造れるんだけれ どね。こうして2つ比較してみると、樽香がついているばかりが、全てでないってこ とがわかるでしょう! 樽のかけかたは強くなくても、エレガントなワインを造るこ とはできるんだ。実は、うちは樽の感じをあまり出したくないんだよ」
続いて、70年代前半のクロ・サン・ドニを奥の方から出してきてくれました。線は 細いんですが、まだまだパワーを感じられ、5年前の「モレ・サン・ドニ・ブラン8 3年」を思い出します。セイス氏は 「うちはね、線は細いけれど、熟成してからもしっかりと酸も残り、パワーもあるワ インを造っていきたいんだ」 とおっしゃいます。このスタイルはまさに近年忘れかけられている、クラッシックで 伝統的なブルゴーニュワインのスタイルだと私は思うのです。 「よそ者」としてブルゴーニュの地に入ったあと、多くの仲間たちの信頼を得て、そ の才能をたった十数年で開花させたジャック・セイスさん。「よそ者」でありながら、 誰よりもブルゴーニュらしい繊細でエレガントでかつ芯の強さのあるワインを造る彼 の姿に、「ワインはやっぱり人だなぁ」との思いを強くしました。 |

