
第1回 やっと巡り会えた南仏の造り手

■イーエックスのオリジナルワイン
イーエックスワインには、確かなテイスティング力をもつ国内トップクラスのソムリエさんが参加して下さっています。また海外生産国(フランス、イタリア、アメリカ)で実際にワインに関わりながら生活をしている常駐のスタッフもいます。
このスタッフのノウハウや情報力を生かして、イーエックスワインならではのワインを各国から1−2生産者だけやっていったらきっと面 白いだろうね、なんていう話となったのがきっかけで、オリジナルワインの話がスタートしました。そして今年1月にオリジナルワイン探しの旅へ石田ソムリエと私の二人がフランスへ飛んだのです。カリフォルニアからはワインジャーナリストでイーエックスのスタッフでもある康子キャドビーさんが現地で合流してくれました。渡仏直前まで、イーエックスらしさのある生産者をどうやって選ぼうかという話し合いがずっと続いていましたが、今、ひそかにすごい速さで勢いのある動きをしている「ラングドック」にしよう、とみんなの意見が一致し、準備を重ねていたんです。
今の日本のワインファンにとってあまりメジャーでない地域で、収穫される葡萄の潜在クオリティが高く、かつ新しい世代の造り手が一生懸命に品質向上に努めている姿勢のある地域のワイン=ラングドックワインって、イーエックスが目指したい方向に近いと思ったのです。渡仏前には、石田ソムリエや現地スタッフがいろんな情報をあつめました。また、南仏生まれで、南仏でワインもつくっていたというフランス人の方の話しも聞きながら、訪問するワイナリーの候補を絞り込んでゆきました。
とにかく可能性のありそうな生産者をひとつでも多くまわり、できるかぎり多くののテスティングをしようと、精力的に生産者を訪ねるハードスケジュールを組んだのです。文献などで徹底的に絞り込んだとはいえ、まわった生産者は3日で10以上を数え、テイスティングも50種類を優に超えていました。そして、やっと自分たちが求めていたワインがみつかったのです!
私たちが出会ったワインとはフォジェールの「DOMAINE RAYMOND ROQUE レイモンド・ロック家」です。
訪問したのがすでに日がくれそうな夕方だったのですが、畑から戻ったばかりのオーナー自らが出迎えてくれました。2人の小学生のお子さんを持つ、映画俳優の「シルベスター・スターローン」にそっくりの40代の素敵な方です。
彼の名前はマーク・ロックさんといいます。ドメーヌ名のレイモンドとは彼のお父さんのお名前で、お父さんは既にマークさんに当主の座を譲っているものの、多くのフランス人のようにリタイア生活を謳歌する事もなく、未だに畑で泥にまみれているんだそうです。
何だか、本物の農家に出会えた気がしました。
マークさんは、会うとすぐに私たちに、「畑をみにいきませんか?」と車で5分くらいいった、小高い山の上にある畑に案内してくれました。
■フィロソフィー(哲学)
彼のフィロソフィーは、「テロワールを表現する」ことであるとはっきりと言い切っています。「テロワール」とは解釈の難しいフランス語で、一般 には「土壌、気候、畑の位置や立地」などを総合した言葉だとされますが、私の経験から砕いていえば、「畑の独自性」ということになるかなぁと最近思っています。
まず彼が最初にはなしてくれたことは、
1:低収量 (35hL/ha)、よりやせた土壌をもつ畑をめざし、標高は350Mが最適と考える。
2:風がとても強く、樹がこわされるので仕立ては低い。
ということです。南仏というのは、かつてフランスで安酒が大量 に消費されていたころ、少しでも多くの収穫量(たとえば150hl/ha)をとろうとしていたそうです。そういう時代には、太陽光に恵まれる上に風が一年を通 して強く病害菌が発生しにくい南仏は、超大量生産の凡庸なワインのメッカだったようです。
それがゆえに、南仏では「テロワール=土地の個性」が語られることがなかったようです。
しかし、ロックさんは、「グルナッシュ、サンソー、カリニャンといった地元品種からは、葡萄の収穫量 をしっかり抑えれば、テロワールを反映した素晴らしいワインが出来るとの信念をもっているようでした。彼の説明によると、南仏というのはミストラルという地中海から吹き上げてくる風が年中とても強いとのことでした。実際私たちがロックさんの畑を訪れたときも、風がビュービュー吹いていました。たしかにあの風に吹き晒されていると、病害菌などは確かに発生しないだろうけれども、木がなぎ倒されてしまうのではないかなぁと思えるほどでした。
そして剪定法においては、伝統であるゴブレを尊重しており、それには良いといわれる理由があるというのです。
その理由とは、真ん中が低くなっていることによっていろんな方向から、一日中陽にあたることができるおかげでで、よく熟した葡萄をつくることができるんだと話してくれました。また八方に広がる葉が日中の強烈な太陽から葡萄を守ってくれる役割もあるようです。
一方、八方に広がる葉が多いゆえの湿気による病害菌の恐れというのも、南仏特有のミストラルのおかげで、ブドウも清潔な状態が保たれています。よりゆっくりとしたブドウの成熟(樹齢35〜60年)こそがよいワインをつくることができ、彼は特にグルナッシュ、カリニャンを尊重しており、もともと、これらの品種こそがこの地域のオリジナルだと語っています。
■ロックさんのワイン
ロックさんのワインをテイスティングしてみて、私の印象に残ったのは、「エレガント」であること、そして「大地の味わい」がすることです。
南仏ワインというと、とかく味が濃いだけで粗野であったり、あるいは、今風のスタイルの凝縮した果 実味スタイルであったりするイメージであったのですが、このドメーヌのワインをテイスティングしてみたら、そうしたイメージが完全に吹っ飛んでしまったのです。
確かに南仏らしく果実はしっかりと熟しているのですが、同時にきれいな酸があり、大変エレガントなのです。
また、しっかりと根を張った葡萄の木が大地からいろんな要素を吸い上げてきた味わいがしっかりとでているのです。
もちろん品種も個性も違うのですが、ブルゴーニュの良い造り手のワインを味わうときと共通 するような「何か」を彼のワインに感じたのです。
これが、きっとテロワールを表現したワインっていうものなんだと思いました。
■ナチュラルで謙虚な造り手、ロックさんの言集
彼が語ってくれたなかで印象に残っている言葉がいっぱいあります。
もちろんワインの味わいも素晴らしかったんですけれども、彼のこうした人柄に私たちは一発でとりこになってしまったのです!
「有機栽培には、興味はあるが一番だとは思っていない。なぜなら、ワイン自体が有機の産物ではないのだから」
彼の醸造は極めてシンプルで、樽熟成もワインの微呼吸のために行っています。農薬も本当に必要なときに丁寧に少量 ずつ使うのですが、彼のような考え方はブルゴーニュの醸造家の多くからも聞かれます。農薬の空中からの散布などでなく、葡萄樹の状態を一本一本みながら、必要な樹に必要量 だけ丁寧に撒くというのは、実に自然の理に適った方法だと私も思います。
「ワインセラーでの保存は最適とは思わない。なぜならワインは生きているから。温度の変化こそ、ワインの成長をもたらす」
シャンパーニュのジャック・セロスさんも同じことをいっていたのを思い出します。もちろん、ワインに突然の日射を浴びせたり、突然極寒に晒して構わないという意味でなくて、ごくごくナチュラルに管理すれば良く、保管状況に神経質になり過ぎるのは却って不自然という意味です。
実際にフランスの地下セラーなども温度は一定でなく、一年の間で12度から15度くらいの間で変化していますし、とにかく、自然の状態を尊重し、自然を信じるという姿勢があったように感じました。
「よけいな分析はしたくない。自然を信じているから。自然がゆっくりと変わっていくように、自分もゆっくり発展していきたい」
ロックさんがいかに自然を尊重したナチュラルなワイン造りをしているか、すごくよくわかる言葉でした。自然を尊重する心=謙虚な心というのは、葡萄栽培に限らず、全ての優れた農家のもつ「こころ」だなぁと思いました。
つくづく、ワインは人だと思います。
たとえどんなに素晴らしいテロワールをもつ畑を所有していたとしても、心無い造り手がオーナーであれば、せっかくの畑も死んでしまいますから。
こんな彼の話しを直接伺い、彼の人間に触れ、「レイモンド・ロック」といっしょにゆっくり自然体で発展していきたいと皆で決意しました。
■ところで、南仏って素敵なところでした!
南仏ってとっても素敵なところでした。すっかり観光モードになってしまった私です。メンバーの一人が途中で体調を崩してしまったほど、過酷なスケジュールのオリジナルワイン発見の旅だったのですが、南仏に着いた夜にとっても心にのこるオーベルジュ(ホテル)に泊まる事ができたんです。
私たちはエールフランスでパリに入り、パリからは激しい雨の中、夕方の7時ころの便で南仏の玄関モンペリエ空港に向かって飛び立ちました。冬のモンペリエはすでに真っ暗です。せっかくこちらに来たのだからと、南仏生まれのフランス人が地元を知っていなければわからないような山奥にある、素敵なオーベルジュを予約してくれていました。
このオーベルジュはモンペリエから北に40KMくらい、ピクサンプールというワイン産地への途上にありました。看板もでておらず、しかも一軒の民家もない山の中にあったのです。
外灯もないような真っ暗な暗闇の山道の中、迷いに迷っていたのですが、地図的には目的のオーベルジュと思われる場所で、大変古い石造りの建物を見つけました。真っ暗な山奥で幻想的にシルエットが浮かび上がる古い建物、自分が中世にタイムトリップしてしまったかのように錯覚してしまう体験でした。
おそるおそる訊ねてみると、なんとそこが目的のオーベルジュだったのです。
聞くと10世紀の建物だそうです。
疲れきっていたメンバーは歓声をあげ、一気に元気がでます。
上品な50歳くらいの素敵なマダムに、ひとつひとつのお部屋に案内されました。
「どこでも気にいったお部屋でいいわよ」と言われ、レディファーストでまず女性から、マダムにお部屋を案内してもらいながら、気に入ったお部屋をえらぶことができます。
お部屋の中は壁は石つくりですが、床は暖かい木でできていました。そして壁にはいかにも歴史の感じられる絵画がかかっています。お風呂も大理石でできており、すごい広さです。きっとお風呂自体は最近のものでしょうが、つくりは当時のままのようです。素敵なお部屋にうっとりとしていると、お食事に案内されます。暖かい暖炉のそばで、マダムと一緒に地元の白品種、ピクプール・ド・ピネで造った白ワインをアペリティフにアットホームなひとときを過ごしたあと、ダイニングでは次々に素敵なお料理が運ばれてきます。
すべてマダムと娘さん達で作ったお手製の地元料理で、心温まる時間を過ごせます。お肉のお料理には、やはり、グルナッシュ、ムールヴェードル、シラーといった地元品種の赤ワインを次から、次へと出してもらいました。もう充分なほどに満腹になり、満ち足りた気分でマダムと食後の会話を楽しんでいると、またまた、素敵なイヴェントがまっていました。
マダムのお嬢さんが、私たちの前ですてきな歌を披露してくださったのです。
若い時のバーバラ・ストライザー???を思い出させるような女性で、細いのにその声量 は見事です。モンペリエは音楽が盛んで、そこのお嬢さんがオペラの学校に通っていると聞いて納得してしまいました。しんとした山奥のオーベルジュで、客は私たちだけ。
本当にロマンティックなひとときでした。
思いがけない歓迎で、翌日からのハードなスケジュールを忘れ、すっかり、ゴージャスな気分に浸ることができました。これだから、ワインのお仕事はやめられないんですよね!
早起きをし、外にでてみるとまたまた朝もやにつつまれた幻想的な風景にうっとり!!!
すっかり観光モードになった気持ちを仕事モードに切り替え、「もう一度、このオーベルジュにぜったい来よう」とひそかに心に誓い、過酷なスケジュールの試飲の旅をスタートさせたのでした。





