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フロム・ザ・ヴィンヤード

 

From the Vineyard

 

「サンヴァンサンの祭り」ってご存知ですか?

思いがけず、「ムルソーで行われるサンヴァンサン祭りにいきませんか?」とのお誘いをうけ、なかなかそんなチャンスはないと、喜んで参加しました。去年の春、ブルゴーニュの憧れの生産者「ルフレーブ」に行ったとき、そこに集まった生産者の方々の中で話題になっていたのが「サンヴァンサンのお祭り」の話。

ルフレーブのマダムが「2000年はジュブレ・シャンベルタン村で行われるけれど、ルフレーブのあるピュリニー・モンラッシェの村で行われるのは、きっと私がおばあちゃんになっているころよ!!」
と話していたことを思い出しました。

そして今年のサンヴァンサンはムルソー村の当番だったのです。

 

サンヴァンサンのお祭りブルゴーニュの「サンヴァンサンのお祭り」は、村ごとの持ち回りで毎年1月の最終土日に行われています。これは守護聖人「ヴァンサン」を祭ったお祭りで、ブルゴーニュの70村には、それぞれヴァンサンの像が祭ってあります。祭りのときには全部の守護聖人が勢ぞろいし、パレードが繰り広げられるのです。

私が、ムルソーの広場を渡ろうとしたときでした。そのパレードに出くわすことができたんです。本や雑誌でよく知っている有名な造り手が、ヴァンサンの像を真剣な顔をして担いでいるのです。


きっと良い収穫とか良いワインがつくれるよう、なんて想いを胸に抱きながら担いでいるんだろう……そんなことを考えながら、大勢の見物客のひとりとして楽しみました。

 

パレードが終わるとパレードが終わると、村のあちこちでいろいろなイヴェントがあります。本から出てきたような、中世の洋服をまとった美人の女性たちが、村中を踊りながらみんなとおしゃべりをしたり、きっといつもは真面目な顔をしながらワインを造っているに違いない風貌のおじさんたちの合唱団が、おそろいのグリーンのユニフォームを着て楽しそうに歌っていたり。村の人たちも楽しんでいるのが、こちらに伝わってきます。

5年前、私は日本の大きなパーティでブルゴーニュの有名な生産者と一緒になったことがあります。美味しいワインと食事、そして楽しいおしゃべりで幸せなひとときを過ごしていると、突然、ブルゴーニュのモレサンドニの村の村長をしていたことのある、“ポンソ”のお父さんが立ち上がって、「ララ・ララ・ラララララ・・・」と両手を掲げて歌い始めたのです。

すると、会場から自然に「ラララ」の合唱がはじまり、それまでのパーティがさらに楽しいパーティに変わったのです。そのときに、「ブルゴーニュで皆が集まったときには、いつもこの歌が歌われるんだ」……と“ポンソのお父さん”から教えていただきました。

 

ブルゴーニュのパーティ会場 場面はブルゴーニュに戻ります。あちらこちらに寄り道をしながら、ランチの行われるパーティ会場にやっとたどり着きました。そのパーティの規模は、なんと1900人弱。どんなパーティになるんだろうと興味シンシンです。驚いたことには、約1900人分ものお料理が、とてもスムーズに、そして暖かいものは暖かくサーヴィスされていたことです。それもそのはず、この準備は一年前から始められていたそうです。そのときのメニューをちょっとご紹介しましょう。

1:兎とフォアグラのモザイク仕立てのテリーヌにムルソー・シュヴァリエ97
2:香草風味のついたカスッーレ風の小粒のエスカルゴにムルソーシャルム'96
3:ほうれん草を敷いた帆立とオマール海老のナンチュアにムルソージュヌヴリエール'93
4:ブレス産肥鶏のロースト、モリーユ茸添えにムルソー赤'96
5:フロマージュにムルソー・ブラニー'79
6:チョコレートのクルスティヤンとヌガーのアイスクリームの取り合わせにクレマンド・ブルゴーニュ

といった具合。必ずお料理に合わせてワインがでてきます。ワインはブラインドでサーヴィスされるので、みんなで、「このムルソーはあの造り手?」だとか議論しあうのです。

食事中そしてその食事中には、例の「ラララ・ラララ・・・」の合唱が30分ごとに行われます。「ラララ」こんな形で再会するとは夢にも思っていなかったので、本当に感激の「ラララ」でした。そのうちにひざにかかっているナプキンがふりまわされ始めます。しかも1900人全員で。それはそれは壮観な光景です。

ところで「ラララ」が終わったあとに「……ラ・ラ・ラ」とワンフレーズ多い人が、いつも数十人います。となりにいる友人が「長く歌っている人たちは、シャブリの人たちなんですよ」と私にそっと教えてくれました。シャブリでは、ブルゴーニュの人たちよりも長く歌うんだそうです。

7時間に及ぶ長いパーティでしたが、「ラララ」もあり、周りの世界中から集まってきている人たちとのおしゃべりなどもあり、とあっという間に感じられました。パーティが終わったのは夜の7時で、外はもう真っ暗です。

 

私たちはこのあと、ちょっとしたアクシデントに見舞われてしまいます。私たちはピュリニー・モンラッシェの畑に車を駐車していたのですが、車を取りに行くのに、ヴォルネー側に近い会場であるからピュリニーモンラッシェまで、けっこう距離があるんです。行くときにはそんなに距離を感じなかったんですが。いつも参加して慣れている人たちは、それを知っているのか、ヴォルネーよりの駐車場に車を停めるんですね。

帰り道すがらの真っ暗なミュルソーの村、それぞれの家では客人たちとパーティをしているのかあちらこちらでにぎやかな声が聞こえていました。

ブルゴーニュは、ミクロクリマといわれるだけあって、気候の表情がコロコロと変わります。その日も朝から雨が降ったり止んだりしていました。粘土質の土壌が、雨ですっかりぬかるんで……。そのぬかるみの畑ときたらもう……。ちなみにその時の気温はマイナス2度くらい。やっと車を見つけてエンジンをかけたものの、ぬかるんでいたために車はスタックしてしまう始末。なんとか無事脱出することができましたが、一時はどうなることかと思いました。

 

真っ暗なミュルソーの村、月あかりしかないピュリニーの畑。それはそれでかえっていい想い出になりましたと思います。今でも、目をつむると、あの月明かりの下の畑が浮かんできます。

本当に素敵だったブルゴーニュのサンヴァンサン祭り。寒くて、泥だらけだったあの夜。それでもあの夜は、私にとって本当に大切な夜のひとつなんです。

 

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