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【とどめを刺す】
――― 昔の侍というものは、とどめを刺すということを非常に大切にしていました ―――
人を切りつける。とっても不穏当な響きを持ちますが、昔の武士や侍と呼ばれる人はいわばそれを使命ともしていたわけで、その職業意識において厳しい心得と作法があったといわれます。
だから、もう一息というところをいいかげんにして、とどめを刺すことを怠って、その作法にのっとらないことを大変な恥としていたそうです。
ものごとをしっかりと確かめ、最後の最後まで見極めてきちんと徹底した処理をすること、それが武士たちのいちばん大事な心がけとされたといいます。
つまり自分の仕事や使命に対して、きちんと“念を押す”かということなんですよね。せっかくの99%の素晴らしい努力も、のこりのたった1%のとどめがしっかりと刺されていなかったら、すべてが台無し、ゼロになってしまうということ。
フランスのあるレストランでこんなことがあったそうです。
お客さまがアンリ・ジャイエのクロ・パラントゥーのマグナムをオーダーされた時のこと。
シェフソムリエはきちんとプレゼンをしました。大きなレストランでしたから、抜栓はコミがします。
しかし、そのコミ(アシスタント)はコルクを折ってしまった。それは大した問題ではなく、サービスは順調に行われ、お客さまも満足でお会計、ラベルを持ち帰りたいとつげました。シェフソムリエはコミにその旨を指示しました。そしてまたしてもコミはラベル剥しに失敗、でもそのラベルの下には偶然にももう一枚ラベルが貼ってありました(時々こんなことはあります)。しめたと、そのもう一枚のラベルを剥し、無事お客さまに渡すことができました。
万事上手くいったかに思えますが、そうはいきませんでした。翌日、そのお客さまは逆上してレストランにやってきました。なぜなら、渡されたラベルはクロ・パラントゥーではなく、ただのヴォーヌ・ロマネだったのです。“お前らは詐欺師か!”ともう収まりません。それもそうです、価格が全然違うのですから。店側はそれが正真正銘だったことを示さなければいけない、でもコルクは折ってしまい、ラベルはボロボロにしてしまって、どちらも捨ててしまった。結局すべての支払はゼロになってしまったそうです。
嘘のような本当の話です。話を追ってゆきますと、お粗末なのはコルクもラベルもきちんと処理できなかったコミの未熟さが原因です。でも、シェフソムリエがそれほどの高価なワインの抜栓やアフターケアにおいてどんな確認をしたかどうかがもっと大事なことです。おそらくはコミに投げっぱなしだったのでしょう。せっかくの貴重なワインをオーダーいただき、楽しんでいただいたのに最後の最後で、“念を押す”ことを怠ったことで、とんでもない損害になってしまったんです。
もうちょっと念を入れておいたら、もうすこしの心配りがあったなら……と悔やみばかりかと思います。
僕らの毎日にもこんなことがあふれていると思います。なにか問題が起きる、その原因はすぐにわかります。確かに今後のためにその原因はきちんと理解しておいて改善に向けなければいけません。でも、それを起こしてしまったのは最後の最後にきちんと念を押しておかなかったことにあるんですね。
僕のポケットに入っている小さなメモ帳には、“足を運ぶ。見届ける”、こう記してあります。
ソムリエ 石田 博
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