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ワインは再生する
それは僕のサービスの経験から基づくものなのではあるのですが、以前「デカンタージュをしたせいで白ワイン(コルトン・シャルルマーニュでした)の香りが飛んでしまった」とお叱りを受けたことがありました。10年以上経ったものでしたが、もっとポテンシャルがあるのではと思い、カラフェに移しました(まあ、その頃は僕も白ワインをデカンタするということに酔っていたとはいえますが)。すっかり落ち込み、サービスを続けていましたが、メインディッシュがでるころに、ふと注ぎ足しをするときれいなモカフレーヴァーが立ち込めていました。渋い顔していたそのお客様もすっかり気に入った様子でした。
そんなことを度々体験しました。当時働いていたトゥールダルジャンではボルドーは必ずデカンタージュをするといういわばマニュアルみたいな習慣がありました。軽いワインやヴィンテージでもオートマティックにしていたんですね。よく“ありゃ、これはしないほうがよかったんじゃないかな”って思うこともあったんですが、たいていはしばらくするとやっぱり良くなっているんです。
先日、ブルゴーニュ大手のルイ・ジャドの醸造責任者の方から、こんなお話を伺いました。
「作柄によって、量が多く獲れたヴィンテージのワインというのは、パッと開いて、その後すぐに軽くなってしまうから、過小評価される。もちろん、偉大なヴィンテージと呼ばれるワインとは別物といえるが、そういったワインは軽くなってしまったのではなく、細胞レベルで一旦構成が崩れるのが早く、再構築されるまでに時間を要する。なのでもうとっくにピークを過ぎたと想われるワインが、予想に反してすごく良くなっているということがしばしばある。92、97、00がそんなヴィンテージだった」
“ああ、デカンタージュの後と似ているな”と思いました。どんなワインでもデカンタージュ直後にすぐ本領発揮することはまずありません。30分から1時間は要します。それは空気接触というショックを受けたワインの細胞が再構築されるまでの時間なのではないのかなと。
随分長くなってしまいましたが、デカンタージュが香りに与える影響は、還元状態を和らげることによって、ブロックされていた本来の香りが上がってくることが主たるもので、酸化のよる影響はあまり大きくないんじゃないかなと考えています。
もうひとつ香りの安定化という作用もあります。それはエステルという成分〔酸+アルコール〕の生成を促すことによります。これは醸造過程における空気接触でも起きていることで、適正な量の酸素はエステルを生み出し、香りが安定(密度が高まるともいえます)します。つまり一時間ないし二時間経っても、香りを最後まで楽しめるのです。これも軽く仕上がったヴィンテージに有効です。
ただ、デカンタージュや空気接触(グラスに注ぐ)によるショックに耐え切れない、再構築ができない状態のワインというのも確かにあります。つい先日、ボルドーのあるワインの1984をデカンタージュしました。より安定するだろうと想って。そしたら、その前はトリュフの香りがきれいにでていたのに飛んでしまって、味わいもバランスが明らかに崩れてしまいました。かなりショックでしたよ。最低の仕事ですからね。
逆にこんなこともありました。シャネルのオーナーがディナーの予約をしていたその日の午後、
「3時にローザンセグラの1983をデカンタージュしておきなさい」
との電話が入りました。
もちろんオーナーの指示です。普通ならまずしませんが、面白半分でしてみました。
1983年、4時間前にデカンタージュをしようなんてソムリエはおそらくいないでしょう。でも驚きました。すごくワインに深みがでてきて、味わいは本当に柔らかく、ふくよかになっていて、なんともいえぬ広がりがあるのです。そして、それはへたることはありませんでした。ディナーは8名だったのであっという間にワインはなくなり、日本側のシャネルの方から、「もう一本用意しておいて」と言われ、急いでデカンタージュをして、サービスしたところ、オーナーから「これはいつ開けたんだ。なんで言わないんだ。それなら違うワインにしたのに!!」と叱られ、結局そのローザンセグラをオーナーはすぐに下げるよう言い、違うワインを頼まれました。確かに4時間前にデカンタージュをしたワインの後に直前にデカンタージュしたものをサーブするというのはソムリエとして間違いですよね。
これはひとつひとつ経験して覚えこんでゆくしかありません。そう意味ではオールドヴィンテージのワインのサービスはまさにギャンブルですね。取り返しがつかないのですから。
4.状態の均一化
ある程度熟成したワインはボトルの中で異なる状態となっています。
最上部の層 - 空気と触れている。
中央部の層 - 若干の空気接触と還元状態にある。
最下部の層 - オリを触れていて、完全な還元状態にある。
これを4名以上にサーブすると、人によって状態にかなり開きが出てしまいます。
これをデカンタージュによって、ミックスすることにより均一の状態でワインをサーブできます。
5.歴史、伝統の尊重
さっきも話したように、デカンタージュに歴史があります。その国、土地によっての習慣もあります。こういった要素は理屈や化学を踏まえないものではありますが、やはり長年培われてきた経験や継承に基づくものですから、やはりそこには必ず“理”が隠れているのものだと信じています。それは必ずしも洗練されたものではなくても、学ぶべきものがあるのです。
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