<page 3/4>
世界のソムリエたちは…。
ニューヨークのあるレストランではワインリストに2つの価格が載っているという記事を読んだことがあります。1つは通常料金、もう1つはリーデルグラスでサービスされる場合の価格だというのです。そして多くのお客様が“リーデル・プライス”を選ぶそうです。店側からすればいいアイディアですね。“グラスの保険”みたいなものですから、それにお客様がグラス代を払ってまでワインを楽しみたいという愛好家だということがわかるのでサービスしていく上でその情報はとても役にたちます。
まあ、良し悪しはさておき、どうやらアメリカでも、リーデルの大ぶりのグラスには価値観が生まれているようですね。
かたやヨーロッパではかなり事情が違うようです。
2000年の世界ソムリエコンクールでのことです。選手一団はロレンシャン高原(モントリオール郊外)の素晴らしいワインセラーで知られるレストランで食事をとっていました。
レストランのオーナー(もちろんワイン好きの)が「みんなはどんなグラスを使っているの?」と投げかけたのがきっかけで、グラス談義が始まったのです。
「シュピーゲラウ!」と何人かが答えました。その他、聞いたことのないメーカーの名前がつづき、そして“ボヘミアンクリスタル!!”とチェコ代表が息巻いたところで、喝采がおき、質疑は終了となりました。その後も僕らのテーブルではグラス談義がつづいたんです。
「ありえないよな、ボヘミアンクリスタルなんて。ところでどうしてる?」
「リーデルやバカラは使っていないな」
「すぐに破損してしまうからね」
「レストランはワインをテイスティングする場所じゃないし、大きいグラスは繊細さが失われると思うんだ」
「そうそう、うちはそれにテーブルは小さめだから、(大きいグラスは)テーブルセッティング上、バランスがよくないんだよね」
ヨーロッパのソムリエたちは、よりシンプルで、程よい大きさの、破損に耐えるグラスを求めていたのです。
アラン・デュカスグループのシェフソムリエ、ジェラール・マルジョンは「ワインの香りは発散されるような状態は好ましくない。少し抑えがきいているくらいがいいんだ。大きいグラスをデュカスグループではあまり使いたくない」といっています。彼が特注したグラスはバランスのよいフォルムの、やや厚手で、ステム(脚の部分)がしっかりとしたものです。ベージュ東京でももちろんそれらがテーブルにはセッティングされています(渋谷さんが「日本は大きなグラスが必要だ」と主張したため、大きいグラスもあります)。
デザインの本質は独自性や創造性より、機能性にあるといいます。ワイン本来の色/香り/味わいをストレートに楽しめる。それがグラスに求められるデザインなのです。それは特にボウル部分に集約されます。ワインはグラスの表面積がもっとも広がる部分まで注がれるべきです。つまり100mlほど注いだあたりがボウルのもっとも広がっている部分でなくてはならないのです。そこまで(もっとも広がっている部分)注いだら、すごい量になってしまうとか、適量を注ぐと表面積は小さい部分になってしまうとかではいけないのです。
機能的である、ということはそういうことだと思います。
実用性はさらに大切です。レストランはエレガントで、非日常的な空間でなくてはなりませんが、商売なのです。利益があがってこそなのです。数十~数百個以上をストックし、毎日サービスし、洗浄し、みがくのです。
お客様にとっても同様のことがいえます。たとえばステムが極端に長いグラスは不安定だし、あごをかなり上げないとワインが口にはいってこないほど大きなボウルは不親切だし、せっかくエレガントに振舞おうとしてる女性にとっては不都合極まりないでしょう*。
*盃型のシャンパーニュグラスは婦人があごを上げて(のど元をみせて)飲まなくてもいいようにデザインされたものです。
このようにどのポイントにおいても実用性が低ければレストランのテーブルでは歓迎されないし、たちまちブリケージとなってしまうのです。もう一度いいます。実用性とは、収納しやすく、割れにくく(チップもバカになりません)、洗浄しやすいということです。
□ □ □
|